発達障害の中で、〝自閉症″の特性には〝こだわり″があります。
その中には、〝勝ち負け″へのこだわりもまた見られることがあります。
例えば、勝負事で負けるとキレる、競争や順番がつくものには一番でないとダメ(いわゆる〝一番病″)などがあります。
こうした状態になる背景には、ゲームという遊びの世界の理解が難しい、ゼロ百思考(曖昧さが理解できない、負ける=ダメなこと)などがあります。
それでは、〝勝ち負け″へのこだわりに対してどのような対応方法が有効なのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児の〝勝ち負け″へのこだわりについて、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、その対応方法について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「加藤博之(2023)がんばりすぎない!発達障害の子ども支援.青弓社.」です。
〝勝ち負け″へのこだわりの対応方法について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
- 大人が「もうおしまい」とゲームセットの審判の役割をする
- 最初は大人が(わざと)負けて、子どもに数回勝たせたあと、徐々に大人が勝つ回数を増やしていく
- 「黒ひげ危機一髪」ゲームで人形を飛ばした人を勝ちにする
- ゲームに負けた人が次にやりたいゲームを提案できるようにする
- 勝ち負けがないゲーム(中略)や、勝ったり負けたりするゲーム(中略)を取り入れる
- 日頃から、子どもがゲームに負けてもキレなかったり、泣くのをがまんしたりしてる様子を見せたら、すぐに褒めてあげる
著書には、以上の6つの対応方法が載っています。
どれも現場を経験されている方だからこその内容だと思います。
著者がよく使う対応方法として、まずは二番目の・最初は大人が・・・といった内容の子ともが勝つから大人が勝つ回数を少しずつ増やしていく方法があります。
この際に、大切なことは子どもが勝った時あるいは負けそうな時の反応をよく観察しておくことだと思います。
勝っても物足りさがあると、子どもは勝ってもあまり嬉しそうにはしません。
もっと大人に本気を出して欲しいと思っています。
また、負けそうな時でもイライラしたりせずある程度余裕が出てきたら、負けをある程度は許容できる状態の可能性があります。
このように、子どもの状態や成長をよく観察していくことで、大人の本気度を調整していくことを著者は大切にしています。
少し別の視点として、ある特定の大人がある特定の遊びにおいて、絶対的にこの大人には勝てないという状況を設定することもありだと思います。
つまり、絶対に勝つことができない状況を取り入れる方法です。もちろん、やりすぎには注意が必要ですが、絶対に勝てない体験、負けざるおえない体験もまた必要だと思います。
その他、著者がよく使う対応方法として、4番目の・勝ち負けがないゲーム・・・といった内容、例えば、戦いごっこ、追いかけっこなど、著者が最終的に勝ち負けをうまく操作しやすい遊びを取り入れる方法も有効だと思います。
もちろん、遊びの前に明確なルールを設定することで、勝ち負けの基準を作ることもできますが、遊びの中で勝っている状況、負けている状況など関わり手の大人が操作しやすい状況をよく作ることで、大人が柔軟に子どもの状態をみてルールを作ることができます。
こうした遊びは、子ども対大人という構造をより引き出すことができ、子どもの団結力を高めていくためにはとても効果的だと思います。
そして、最後の・日頃から、子どもがゲームに負けてもキレなかったり、泣くのをがまんしたりしてる様子を見せたら、すぐに褒めてあげる方法もよく使います。
子どもを褒める時に大切なことは、結果だけではなく、何かに取り組んでいる過程を具体的に褒めることが大切です。
〝勝ち負け″へのこだわりが強い子どもは特に結果にのみ注意が向いてしまいます。
そのため、関わる大人は結果以外に対しても、注意を向けるような声がけをすることが大切だと感じています。
それ以外の対応方法も著者も部分的に活用していると思います。
大切なことは、〝勝ち負け″へのこだわりの背景を理解していきながら、長期的に育てていくという視野を持つこと、そして、対応方法のレパートリーを増やしていくことだと思います。
子どもが負けて〝キレた″場合への対応方法について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
基本的に、ゲームなどに負けて「キレる」場合は、放っておけばいいでしょう。しばらく様子を見て、その子が立ち直る(その場を自力で解決する)のを待つのです。
子どもがゲームに負けてしまい(あるいは負けそうになり)癇癪や怒りを爆発させてしまったら、個別の空間に連れて行くなどして、クールダウンをはかる必要があります。
著書にもありますが、イライラがおさまるまでは、声をかけたりせずにそっとしておくことが大切です。
著者はこれまで〝キレた″状態の子どもを落ち着かせようと声掛けを多くしてしまったことで、さらに混乱を招いてしまったことが少なからずあります。
〝負け″という事実を子どもが受け入れるには少し時間がかかります。
それも経験だという認識を持ち、待つ姿勢をとることが大切なのだと思います。
以上、【発達障害児の〝勝ち負け″へのこだわり】療育経験を通して考えるについて見てきました。
〝勝ちへのこだわり″に執着し、その状態を他者が賞賛することで、その後の人生において〝勝ちへのこだわり″はさらにエスカレートしていく場合もあります。
人生において、負けることもあり、負けから学ぶこともたくさんあります。
そんため、発達障害児において(特に自閉症)、早い段階から負けを学んでおくことは大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も発達障害児支援をしていく中で、勝ち負けへの耐性を子どもたちに少しずつ身に付いていけるような関わり方をしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害児の〝こだわり″への対応】勝ち負けを例に考える」