著者は長年、療育現場で発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしてきています。
発達障害児の中には、背景要因は多様でありながらも、〝対人関係がうまく発展しない・発展しにくい″ことがあります。
それでは、発達障害児に見られる対人関係が発展しない場合に対して、どのような対応方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られる対人関係が発展しない場合の対応について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、6つのポイントを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩永竜一郎(2022)発達症のある子どもの支援入門-行動や対人関係が気になる幼児の保育・教育・療育-.同成社.」です。
※幼児を対象として書かれた本ですが、学童期にも活用できる視点も含まれていると思います。
対人関係が発展しない場合への対応:6つのポイント
著書には〝対人関係が発展しない″場合への対応方法として、以下の6つのポイントが書かれています(以下、著書引用)。
相手による反応の違い、他者とのかかわり方の特徴をとらえる
体性感覚(触覚や深部感覚など)を使って相手への注意を高める
身体を使った遊びで要求行動を引き出す
子どもの行動を大人が模倣してみる
いつの間にか模倣してしまう活動を取り入れてみる
他の子どもとの遊びが発展するよう仲介する
それでは、次に、以上の6つのポイントについて具体的に見ていきます。
1.相手による反応の違い、他者とのかかわり方の特徴をとらえる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ASDの特徴(中略)対人関係の問題にも様々なタイプがありますので、それを把握することは必要です。
発達障害の一つである自閉症の特徴を見ても様々なタイプがあると言われています。
例えば、自分の世界に没頭するタイプ、他者から言われた通りにするタイプ、ある程度は積極的に他者とコミュニケーションができるタイプなど、同じ自閉症にも異なるタイプがあります。
そのため、子どもがどのような対人的構え(関わり方)を持っているのかを把握することが必要です(〝相手による反応の違い、他者とのかかわり方の特徴をとらえる″)。
著者がこれまで見てきた子どもの一例を上げると、大人との関わりにおいてそれほど違和感のない子どもが、子どもとの関わりになると急に難しくなるケースもありました。
このことからも、子どもと関わる相手(大人・子どもなど)や状況(家庭・学校・その他)、活動内容などによる違いを把握していくことは、子どもの特徴を捉える上で大切だと思います。
2.体性感覚(触覚や深部感覚など)を使って相手への注意を高める
以下、著書を引用しながら見ていきます。
触覚や身体の深部感覚(筋肉、関節の感覚など)を使ったかかわりを通して、対人関係の発達を促す方法があります。
発達障害児、中でも、自閉症児は他者からの働きかけによる反応が乏しいことがよくあります。
こうした子どもに対して、体性感覚からアプローチする方法は効果的だと考えられています(〝体性感覚(触覚や深部感覚など)を使って相手への注意を高める″)。
例えば、子どもにマッサージをしたり、手足をブラブラさせ振動を与えるなどがあります。
こうした体性感覚への働きかけは、働きかけている相手を意識することに繋がっていきます。
著者も幼児期から学童期の子どもたちへのアプローチとして、体性感覚への働きかけはとてもよく行ってきました。
そして、その効果の一つとして、対人意識の向上にも繋がっていると感じることがよくあります。
3.身体を使った遊びで要求行動を引き出す
以下、著書を引用しながら見ていきます。
くすぐり、追いかけっこ、抱っこしてぐるぐる回すなど子どもが好きな身体遊びを多めにやると良いでしょう。
体を使った遊びを通して子どもからの要求行動を引き出すアプローチです(〝身体を使った遊びで要求行動を引き出す″)。
著者も、著書にあるくすぐり、追いかけっこ、抱っこしてぐるぐる回す遊びを通して子どもからの要求行動を引き出すことはよく行っています。
子どもが好きな身体遊びが見つかると、必ず子どもは繰り返しを欲してきます。
そこで、言葉による発信、ジャスチャーや発声による発信にしっかりと言葉や表情を持って応えていくことが大切だと感じています。
4.子どもの行動を大人が模倣してみる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ASD児に相手の動きを見るように促しても興味を向けてくれないことがあります。そのような時に子どもの動きを大人が真似してみる方法を使うと大人の動きに興味を向けてくれるようになることがあります。
著書にあるように、自閉症児は他者の動きの真似をすることが少ない場合があります。
もちろん、中には、関わりの中で自然と対人意識が高まり、それに伴い他者の動きや言動の真似が増えていく場合もあると思います。
それに対して、模倣が少ない子どもには、逆に大人が、子どもがしていることを真似てみることも有効な場合があります(〝子どもの行動を大人が模倣してみる″)。
子どもが嫌がる場合もありますが(その場合は無理にしない方がいいです)、逆に興味を寄せて、大人の動きを注視することもあります。
そこから、大人とのやり取り・関わりが活性化していったと感じるケースも少なからず著者にはあります。
5.いつの間にか模倣してしまう活動を取り入れてみる
直接的に模倣を促すことも必要ですが(4でみたように)、時には、間接的なアプローチが有効な場合もあります(〝いつの間にか模倣してしまう活動を取り入れてみる″)。
著者の経験を例に上げると、毛布ブランコが好きな子ども(毛布がフワフワと動く感覚など視覚刺激も好き)に対して、大人と一緒に毛布を持ってもらうことを促し、一緒に行うことで、これまで見る側だった子どもが自分も一緒にやる側に移っていったケースもあります。
こうした経験を通して、他者の動きへの気づきを促していけるのだと思います。
6.他の子どもとの遊びが発展するよう仲介する
子ども同士の興味関心といった共通点を探していきながら、興味関心を活用して、大人が子ども同士の関わりを仲介することで遊びを発展させていく方法もとても有効です(〝他の子どもとの遊びが発展するよう仲介する″)。
著者は少しでも興味関心が芽生えている、あるいは芽生えそうな遊びを通して、子ども同士がうまく繋がっていったケースをこれまで数多く見てきています。
もちろん、仲介する関わり手の技量(繋ぐ技術)によって、その効果に差はでると思いますが、それでも、子ども同士が興味関心を通して交流をはかる機会を作っていくことはとても大切だと感じています。
以上、【発達障害児に見られる対人関係が発展しない場合の対応】6つのポイントを通して考えるについて見てきました。
発達障害児は対人関係の発展に困難さがある一方で、もともと、対人関係をとても欲しているケース、あるきっかけによって少しずつ対人関係が開花していくケース、ある共通項を通して発展していくケースなど、子どもの状態像によって対人関係の発展の仕方には違いがあると言えます。
そのため、まずは子どものことを理解していくことがとても大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育を通して、子どもたちが様々な他者と繋がり、良い関わりができたという経験を持てるように、対人関係の発展の仕方について学びと実践力を高めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害児はなぜ興味関心が広がりにくいのか?】定型発達児との違いを通して考える」
関連記事:「【自閉症児の人間関係の力を高める方法】おもちゃ教材を例に考える」
岩永竜一郎(2022)発達症のある子どもの支援入門-行動や対人関係が気になる幼児の保育・教育・療育-.同成社.