著者は長年、療育現場で発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしてきています。
その中で、子どもの対応で苦慮するものとして、他児を叩く・蹴るなどの〝他害″があります。
もちろん、〝他害″は発達障害があるから生じるわけではありません。
一方で、発達障害児に見られる発達特性などが要因となって〝他害″に発展してしまう場合もあります。
それでは、発達障害児に見られる他害に対して、どのような対応方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られる他害への対応について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、7つのポイントを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩永竜一郎(2022)発達症のある子どもの支援入門-行動や対人関係が気になる幼児の保育・教育・療育-.同成社.」です。
※幼児を対象として書かれた本ですが、学童期にも活用できる視点も含まれていると思います。
他害への対応:7つのポイント
著書には〝他害″への対応方法として、以下の7つのポイントが書かれています(以下、著書引用)。
未然に予測して対応する
イライラを軽減する
個別に遊ぶ時間を作ってみる
身体を動かす活動を増やす
コミュニケーション方法を教える
行動の前後の状況から考えてみる
問題行動が起こる前の対応を考えてみる
それでは、次に、以上の7つのポイントについて具体的に見ていきます。
1.未然に予測して対応する
以下、著書を引用しながら見ていきます。
子どもの暴力的な行動が出やすい状況を把握し、その予兆が見えたら未然に防ぐことが必要でしょう。
他の遊びに誘導したり、刺激が少ない場所でクールダウンを図れるように誘導したりすることが必要でしょう。
〝他害″行為の背景要因は、子どもによって多種多様です。
そのため、一人ひとりの個別対応が必要になっていきますが、中でも、〝未然に予測して対応する″ことはとても重要だと思います。
著者も日々、子どもと関わっていると、何が嫌で、また、どういったタイミングで〝他害″行為が生じるのかがおおよそ予測できるようになってきます。
そのため、未然に環境を調整するといった予防的視点は最も多く活用していると思います。
対応方法として、刺激となる他児とできるだけ空間を分けること、個別にクールダウンが持てる場所を整えておくなどが有効です。
関連記事:「【発達障害児の〝他害″行動への対応方法について】〝環境調整″の視点から考える」
2.イライラを軽減する
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ADHD児やASD児の中に普段からイライラが起こりやすい子どもがいます。
ですから子どもの気持ちをくみ取りながら、そのイライラの背景をとらえようとする姿勢を持つことは大切だと思います。
イライラ感が高まる背景は子どもによって異なりますが、中でも、著書にあるように、ADHD児やASD児は場面や状況によっては、とてもイライラ感が高まりやすいケースが多いと感じています。
そのため、〝イライラを軽減する″関わりが必要です。
例えば、ADHDの発達特性である多動・衝動性が〝他害″へと発展した場合には、特性への配慮が必要になってきますし、また、ASDの発達特性であるこだわりが〝他害″に繋がった場合にも同様に特性への配慮が必要です。
このように、発達特性も含めたイライラの背景(子どもの気持ちをくむ)を捉える視点はとても大切だと感じています。
3.個別に遊ぶ時間を作ってみる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
マンツーマンのかかわりは短時間でも毎日できると理想的ですが、週に数回でも効果がでることがあります。
子どもは信頼している大人・遊びたい大人(養育者・保育者など)から個別にしっかりと関わりを受けた場合、著書にあるように情緒が安定することがよくある(イライラ感が低下する)ことは、著者の療育経験を踏まえても同様にあると感じています。
そのため、イライラ感を軽減したい場合には、〝個別に遊ぶ時間を作ってみる″ことはとても大切です。
実際に、イライラしている子どもに著者が個別にじっくりと向き合う時間をとったことで、気持ちが安定した・他害など攻撃性が減った事例は多くあったと思います。
4.身体を動かす活動を増やす
以下、著書を引用しながら見ていきます。
特に動きの感覚を過剰に求める子どもは動くことが少ないと特にイライラしやすくなることがあります。
著書にあるように、子どもの中には、身体活動の不足からイライラ感が高まり、些細なことでも〝他害″行為が生じるケースもあります。
そのため、こうした子どもには〝身体を動かす活動を増やす″ことが必要です。
著者が以前見ていた子どもの中に、常に動き回っていたADHD児がいました。
著者はこの子どもと全力でその子が好きな体を動かす活動を日々組み込んでいった結果、一度、全力で発散することで、その後の活動に落ち着きが見られたことがよくありました。
5.コミュニケーション方法を教える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
叩いたり、蹴ったりすることがいけないことを教えるだけでなく、その代わりの望ましい行動を教えることが不可欠です。
言葉で表現できない子どもには、ジェスチャーや写真、絵など言葉以外で伝える練習をすることも必要です。
〝他害″行為がでると、関わり手は注意を繰り返してしまうといった負のループに陥ってしまう場合があります。
著者のこれまでの経験でもこうした状況は少なからずあったように思います。
大切なことは、注意すること以上に望ましい行動を教えていくことです(〝コミュニケーション方法を教える″)。
例えば、おもちゃを借りたい場合に、おもちゃを取ろうとして他児を蹴ったり・叩きそうになる前に、〝かしてだよ″と子どもに伝えることが必要です。
そして、うまく言葉で伝えることができた場合には、しっかりと褒めることがとても大切です。
また、著書にあるように、言葉での伝達・発信が難しいケースにおいては、写真やイラスト・ジェスチャーなどの練習が必要になっていきます。
関連記事:「【発達障害児の〝他害″行動時の対応について】暴力が出た時にどのように止めれば良いのか?」
関連記事:「【発達障害児の〝他害″の再発を防ぐための方法について】療育経験を通して考える」
6.行動の前後の状況から考えてみる
応用行動分析学の視点によれば、人の行動を、①先行事象→②行動→③結果、から分析し対応していく方法を取っています。
そのため、〝他害″においても、②行動→〝他害″が生じた際に、なぜ、生じたのかを①と③も併せて分析していきます(〝行動の前後の状況から考えてみる″)。
分析の結果、②行動→〝他害″に繋がる要因が予測できた場合に、①と③への対応を取っていくといった流れになります。
関連記事:「【発達障害児の〝他害″を防ぐための方法について】〝発生条件″を見極めることの大切さについて考える」
7.問題行動が起こる前の対応を考えてみる
以下、著書を引用しながら見ていきます。
何度注意しても、一向に行動が改善しないこともあります。
このような場合、問題行動が出た後の対応だけでなく、次の場面で問題行動が起こりにくくする配慮が必要となるでしょう。
子どもの中には、何度、注意をしても〝他害″が減らないケースもまたあるかと思います。
そのような場合には、先々の行動を予測した対応が必要になってきます(〝問題行動が起こる前の対応を考えてみる″)。
6で見た〝他害″行為の分析と対応に加え、1で見た未然に防ぐという視点を合わせて、常に先々を予測して〝他害″ができるだけ生じないように対応するといった視点だと言えます。
著者もこのようなケースにおいて、常に先々のリスクを予測して関わることで徐々に〝他害″が減っていった子どももいました。
関わり手の力量(信頼関係も含め)にも左右され、また、労力も大きいため、チームで連携体制を取って対応する必要があると感じています。
以上、【発達障害児に見られる他害への対応】7つのポイントを通して考えるについて見てきました。
他害行為には、様々な背景要因があります。
そのため、背景要因を把握してきながら、子どもに応じた対応方法を工夫していくことが大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も他害への対応方法について実践を通して学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【不適応行動の対応で大切な子どもとの信頼関係】発達障害支援の経験を通して考える」
関連記事:「【発達障害児の〝他害″行動の意味とは何か?】療育経験を通して考える」
岩永竜一郎(2022)発達症のある子どもの支援入門-行動や対人関係が気になる幼児の保育・教育・療育-.同成社.