発達障害児は、発達特性などが影響して、生活の様々な所で困り感が生じる場合があります。
著者は長年、療育現場で発達障害児支援を行っていますが、個々の発達特性や発達段階等を踏まえたオーダーメイドな支援はとても大切だと感じています。
それでは、発達障害児に見られるコミュニケーションがうまく嚙み合わないことに対して、どのような対応方法が有効だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児に見られるコミュニケーションがうまく嚙み合わないことへの対応について、SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.」です。
コミュニケーションがうまく嚙み合わないはなぜ生じるのか?
コミュニケーションがうまく嚙み合わない要因としては、様々なことが影響していると考えられています。
1つ目として、〝他者視点の弱さ″です。
〝心の理論の弱さ″とも表現できるかと思いますが、要するに他者の視点で物事を捉えることの難しさです。
そのため、自分の興味関心について、次々と話し続ける場合があります。
2つ目として、〝言葉を字義通り受け取る″があります。
例えば、お母さんから「お風呂のお湯を見てきて?」との問いかけに、本来であればどの程度溜まっているのかを見て来て欲しい、もしくは、ちょうど溜まったら止めて欲しい、などを意図してお願いしているも、ただじっと見ている、お湯があふれていてもそのままにしておく、などがあります。
3つ目として、〝中枢性統合の弱さ″です。
〝中枢性統合の弱さ″とは、例えば、大人から「公園にいかない?」との誘い掛けに対して、子どもが「行く!」と応えて実際に連れていくも、「ここは公園じゃない!ブランコがないから!」と伝えるくるなどがあります。
つまり、この子にとっての公園とは、ブランコが中心となっており、他の遊具などはほとんど重要ではない(全体ではなく部分で考える特徴)といった認知をしているなどがあります。
コミュニケーションがうまく嚙み合わないことへの対応について
著書には、コミュニケーションがうまく嚙み合わないことへの対応として、〝①SST(ソーシャルスキルトレーニング)″〝②ペアレントトレーニング″〝③感覚統合療法″の3つからのアプローチ方法が記載されています。
それでは、次に、①②③のそれぞれのアプローチ方法について具体的に見ていきます。
① SST(ソーシャルスキルトレーニング)
以下、著書を引用しながら、SSTからのアプローチを見ていきます。
・人によって好きなものが異なることを伝える
・言われた人の気持ちを一緒に考える
・絵カードなどで本人のつまずきを知ることからスタートする
まずは、〝興味関心が人によって違うことを伝える″ことです。
例えば、「○○君は電車が好きだけど、歴史には興味はないと思うよ」など、事前に相手の興味関心に関する情報を伝えておくことも一つの方法です。
様々な子どもが異なる興味関心があるということを、日頃から伝えることが大切です。
次に、〝相手の気持ちを想像させる″ことです。
例えば、太っている相手に対して「太っているね!」と感じたままに相手に伝えてしまう時など、「それを言われて○○さんはどういう気持ちになると思う?」などと問うたり、絵カードなどを活用して相手の気持ちを伝える対応もまた大切です。
次に、〝他者理解のアセスメントをする″ことです。
著書には、〝絵カード″を活用して、子どもがどのような受け止め方(状況・場面の理解)をしているのかを確認する例が記載されています。
例えば、物事の全体像ではなく、部分にフォーカスして状況を捉えていることが影響して、誤った解釈をしている可能性もあります。
そのため、子どもがどのように状況・場面を踏まえて、他者の気持ちを理解しているのかをアセスメントすることも必要です。
② ペアレントトレーニング
以下、著書を引用しながら、ペアレントトレーニングからのアプローチを見ていきます。
・「待ってから褒める」を実践する
・否定ではなく訂正して伝える
まずは、〝待つ→褒める、を実践する″ことです。
例えば、自分の興味関心のある話題を直ぐに話したい!という思いが強い子どもに対して、少し待っていられたら褒める(完璧でなくてもOK)、あるいは、待つ時間に他の活動を促す工夫も必要です。
そして、他の活動をして待つことができたら褒めることもまた大切です。
次に、〝話し方・話の内容への注意ではなく訂正を心掛ける″ことです。
子どもの話し方・話の内容が、仮に相手に嫌な思いを感じさせる場合でも、できるだけ注意をするのではなく、「○○と話した方がいいよ!」などと、訂正を心掛けることが大切です。
③ 感覚統合療法
以下、著書を引用しながら、感覚統合療法からのアプローチを見ていきます。
・身体を使った体験を言葉にする
・状況を把握する遊びを行う
まずは、〝身体経験を言葉にする″ことです。
著書には、例えば、〝優しい″といった言葉を理解するためには、実際に相手に触る・触られるといった身体経験の中で、その感覚を学んでいくことが大切だと記載されています。
コミュニケーションの基盤は情動を伴う身体経験にありますので、身体経験を伴う活動を通して、身体で感じる感覚を言葉に置き換えていく工夫が必要です。
次に、〝状況把握を伴う活動を取り入れる″ことです。
例えば、サッカーやケイドロなどの複数人の競技は、部分にフォーカスする以上に全体把握が必要になる活動・遊びです。
そのため、できるだけ部分フォーカスにならない活動・遊びを取り入れていくことで、物事の状況把握を促す試みもまた必要だと言えます。
以上、【発達障害児に見られるコミュニケーションがうまく嚙み合わないことへの対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチについて見てきました。
これまで見てきたように、コミュニケーションがうまく嚙み合わない背景とそれに伴うアプローチ方法には様々な視点があることがわかります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに良い支援を届けていけるように、日頃から学ぶ姿勢を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.