発達障害のある人や発達に躓きのある人たちは、特定の特性が顕著に見られる場合もあります。
しかし、中には、様々な特性が重なりあって(「重複」して)、それぞれの特性もスペクトラムといった「強弱」が見られるなど、状態像が多様な場合が多いと言われています(療育現場に携わっている著者もそう実感しています)。
例えば、ASDの特性は顕著に見られるが、ADHDの不注意の特性も若干見られるというように「重複」「強弱」があるというわけです。
一方で、こうした「重複」「強弱」の両方の視点を重視した研究や理論、評価ツールなどが少ないことが現状としてあります。
それでは、こういった現状の中で、「重複」「強弱」を重視した視点などを提唱している研究などはあるのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害の「重複」「強弱」への理解について、「DAMP症候群」「ESSENCE」「MSPA」を例に考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2018)発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち.SB新書.」です。
「DAMP症候群」について
「DAMP症候群」はスウェーデンのクリストファー・ギルバーグ教授が1980年代以降に提唱したもので、その考え方は以下です(以下、著書引用)。
これは、注意や運動、知覚、会話などの各領域に困難がみられることを、総合的にひとつの症候群としてとらえようという包括的な考え方です。
「DAMP症候群」とは、例えば、ADHDの特性にDCDやASDの特性が重複しているといった研究結果から、引用文のような〝注意や運動、知覚、会話などの各領域に困難さが見られる″という領域間の関連性を包括的に捉えた考え方になります。
最近では、DCD(発達性協調運動障害)という協調運動に関する研究が広がりを見せる中で、ADHDとの関連が指摘される(DAMP症候群など)研究も増えてきています。
「ESSENCE」について
「ESSENCE」もまた、同じくギルバーグ教授が、発達障害の早期発見に繋がる徴候(サイン)があるという考えのもと、2009年に提唱したものです(以下、著書引用)。
ESSENCEの項目として、発達全般の遅れや、運動発達の遅れ、感覚刺激に対する敏感・鈍感、言葉の遅れ、衝動性の高さ、気が散りやすいこと、遊びに対する関心のなさ、常同的な行動、気分の変動、睡眠覚醒リズムの乱れ、偏食といったことをあげています。
著書の内容から、ギルバーグ教授は、以上の様々な項目を発達障害の早期の発見のサインとしての考え方を提唱しており、それが「ESSENCE」というわけです。
この考え方からも、発達障害には、様々な特性や発達の遅延などが関連しており、単独というよりも重複している場合が多いと考えられています。
「MSPA」について
「MSPA:発達障害の特性別評価法」は、船曳康子教授のグループが2009年から開発してものであり、評価内容は以下です(以下、著書引用)。
MSPAは、発達障害の代表的な特性をコミュニケーションやこだわり、不注意、多動、衝動性、学習などの14項目に分け、それぞれの強さを5段階で評価するというものです。
「MSPA」はASDやADHD、DCD、SLDなどの発達特性を含めた14項目の評価が可能になっています。
「MSPA」も、見ての通り、様々な発達特性などの総合的な評価の視点を重視(診断に先立つ評価)しているため、発達障害の「重複」「強弱」への理解を重視したものとなっています。
「MSPA」については以下の記事を参照して頂ければと思います。
関連記事:「【MSPAの特徴】発達に躓きのある多様な子どもたちの状態像の理解と評価」
以上、【発達障害の「重複」「強弱」への理解】「DAMP症候群」「ESSENCE」「MSPA」を例について見てきました。
以上の3つ以外にも、今回参考資料で取り上げた書籍の中には、ASとADHの強弱と重複のイメージ図とその説明などが記載されています。
発達障害児・者の支援に携わっている方、身近にこうした特性の人たちがいる方には理解においてとても参考になるとかと思います。
発達障害など、発達に躓きのある人たちの多くは、「重複」「強弱」など状態像が多様です。
著者は今後も療育現場を通して、一人ひとりの状態像について理解を深めていきながら、その知見を実践に役立てていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2018)発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち.SB新書.