療育(発達支援)を長年行っていると、子どもたちの成長を実感する機会に多く出会うことがあります。
こうした出会いは、療育(発達支援)の〝成果″を感じる時でもあります。
もちろん、療育(発達支援)の成果は、複合的な要因が影響していることが多いため、特定の因果関係からは語ることができない難しさがあります。
一方で、〝○○の発達が大きく影響して○○の成果が出た可能性がある″〝○○の支援が大きく影響して○○の成果がでた可能性がある″といった仮説を立てることも可能だと言えます。
そして、長期的な子どもとの関わりを通して、この○○に当てはまるものが徐々に見えてくることがあります。
さらに、多くの事例を通して、仮説の精度を高めていくことが可能になっていきます。
それでは、療育(発達支援)の成果を感じる時として、どのような事例があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の成果について、臨床発達心理士である著者の経験談から、未学習・心の理論をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
【療育(発達支援)の成果】未学習・心の理論をキーワードに考える
事例:小学校高学年のA君(当時)
A君は、高学年になるまで、他の子どもたちと関わることが少ない子どもでした。
学校に行く機会も少なく、著者がいる事業所に来るまで、同年代集団との関わりを持つ機会が少ないといった背景がありました。
そのため、最初に著者がA君と関わり始めた当時は、A君は様々な子どもたちが集団遊びをしている様子を見て、他児との関わりに興味を持つようになっていきました。
もともと、他者との関わりが好きといった性格もあったように思います。
一方で、A君は他児との関わりに興味がある反面、〝自分の遊びのルールを他児に押しつけようとする″〝自分のやりたいことを他児の意見を聞かずにやろうとする″〝他児が気になることを一方的に言ってしまう″など、トラブルが多発する状況にありました。
もう少し、具体的に見ると、これまで他児集団が遊んでいたごっこ遊び・ルール遊びに急に混ざり、次々と自分の都合に合わせて遊びのやり方を変更していく、使いたい物を一人独占しようとする傾向がある、他児の振る舞い・行動で気になる点を直球で伝える(邪魔だ!どいて!など)などがありました。
こうしたA君の行動の背景には、明らかに他児との関わりの経験の少なさ、つまり、未学習と、相手の立場に立って物事を考える力の苦手さ、つまり、心の理論に困難さがあると考えられました。
それでは、次に、未学習・心の理論をキーワードに支援の経過をお伝えしていきます。
未学習への支援から見たA君の変化
トラブル続きであったA君でしたが、他児との関わりの経験によって豊富に楽しい経験が蓄積されていったことも事実としてありました。
著者は、他児との関わりにおいて、遊びはじめに〝今、○○といったルールでやっているんだ″〝ルールを変えたい時には、友達に聞いて見て″など、遊びの内容(やり方・ルールなど)を事前に伝えること、変更したい場合には、友達に聞いていい場合には変更できるといったことを適宜伝えていきました。
また、A君と相性の良い子どもと遊べるような環境調整、さらに、トラブルになりにくい遊びの内容の設定(子どもチームVS大人チームといった対抗戦など)、物の使用のルールの事前の伝えなど、様々な環境調整を行っていきました。
こうした日々の支援の継続も少なからず影響して(仮説ですが)、A君は、次第に他児とうまく関われるようになっていきました。
そして、今では、遊びの輪を乱すことが少なくなり(むしろうまくなり)、物の貸し借りなどもうまくできるようになっていきました。
最大の変化は、〝友達と仲良くしたい″といった気持ちが顕著に出てきたことでもありました。
この言葉は、著者がA君自身から聞いた言葉でもあります。
まさに、これまで経験してこなかった〝未学習″が少しずつ改善されたことによる変化(成功体験の蓄積)だと言えます。
心の理論への支援から見たA君の変化
A君には、自閉症スペクトラム障害といったASDの特性が顕著にありました。
そのため、〝心の理論″にも困難さが見られていました。
著者は、A君に対して、他児の気持ち(意図・信念・気持ちなど)を推論する過程をできるだけ具体的に言葉にするようにしていきました。
例えば、〝B君にとって○○の遊びは少し難しいからわからないかもしれないよ″〝Cちゃんは学校で疲れているから少しイライラしているんだよ″などと、他児の心情を言葉にするようにしていきました。
こうした日々の支援の継続も少なからず影響して(仮説ですが)、A君は、次第に他児の行動の背景を言葉にする力がついていきました。
これまで、A君が一方的な視点で感じ考えていたことが、少しずつ他者の視点も加わってくるようになっていきました。
それは、著者が他児の気持ちを言葉にすることで、他児に対して共感する言動が見られるようになったことが大きな変化としてありました。
例えば、〝Cちゃんは、疲れているんだね。それはイライラするよね。俺にもあるよ。″といった感じです。
こうして、言葉によって他者の心情を推論できる力が高まっていった背景には、先述した〝友達とうまく遊べるようになりたい″といったA君の思いが強くあったからだと著者は考えています。
以上、【療育(発達支援)の成果】未学習・心の理論をキーワードに考えるについて見てきました。
支援の過程を改めて振り返って見ると、短い期間にAは急速に多くのことを学習していっていたのだと考えさせられます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、子どもたちにとって必要な支援を届けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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