著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わってきています。
発達に躓きがあると他者とうまく関わることが難しい子どもたちが多くいます。
その背景は、個々によって異なりますが、大切なことは〝相手に合わせる力″を育てていくことだと思います。
人は〝相手に合わせる力″があることで(過剰な合わせすぎはデメリットになりますが)、共に生きる喜び、共に活動する喜びを感じることができます。
それでは、療育現場において、〝相手に合わせる力″を育てるためにはどのような視点が必要になるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)で大切なことについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝相手に合わせる力″を育てるために必要なことについて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「加藤博之(2023)がんばりすぎない!発達障害の子ども支援.青弓社.」です。
〝相手に合わせる力″を育てるために必要なこと
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「人と合わせること」を性急に求めるのではなく、まずは「人と合っていること」の心地よさを体験してもらうことが大切です。
相互的なやりとりが成立することで、双方の一体感はどんどん深まっていきます。これこそが、「人に合わせる力」の第一歩になります。人はみんな「相手と合っていることを心地よいと思う力」が生まれつき備わっているからです。
著書には、楽器遊びを例に〝相手に合わせる力″の育て方が記載されています。
例えば、著書にあるように、急に〝相手に合わせる″ことを求めるのではなく、同じリズムで楽器を叩くなど、まずは〝人と合っていること″に心地良さを感じる体験が大切だとしています。
次に、大人がテンポやリズムに変化を加えることで、人への合わせ方を変えていっても良いかもしれません。
〝人と合っていること″への心地よさが増してくると、今度は相手が叩いてから自分が叩く、自分が叩いてから相手が叩くなど、相互的なやり取りが生まれてきます。
この段階になると、〝人に合わせる力″が育ってきたといっても良いと思います。
つまり、〝人に合わせる力″を育てるベースは、〝人と合っていること″の心地よさを体験することだと言えます。
この力こそまさに〝社会性″の発達において大切な要素です。
人はある体験を誰かと一緒に共有することで、共有することの楽しさの過程の中で、互いの心情や意図、考え方の違いを知り、そして、役割を分担しながら目標に向けて協力していくようになります。
〝人に合わせる力″を育てるためには、その前提として、共に活動する楽しさや喜びを経験値として積み重ねていくことが必要だと言えます。
著者に経験談
著者は発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わっています。
発達障害のある子どもは〝人に合わせる力″の育ちにくさがあります。
一方で、著者がこれまで見てきた多くの子どもたちは、〝人に合わせる力″がしっかりと育っていると感じるケースが多く見られています。
その根底で大切なことは、著書にもあったように〝人に合っていること″への心地よさを感じることができるかどうかだと思います。
先ほどの例で上げた楽器遊び以外にも、ごっこ遊びや制作遊び、リズム遊び、会話など様々な活動を通して〝人に合わせる力″は育っていくのだと思います。
例えば、〝会話″を例に見ていきましょう。
互いにほとんど接点がなかったA君とB君について見ていきます。
著者はA君とB君の二人が同じ電車関連のテーマについて興味関心があることを知っていました。
そこで、二人がいる場所でA君とB君に向けて電車の話題を投げかけました。
すると、二人は電車の話を次々と話します。
会話のやり取りは一方的な所が多くありましたが、著者が会話をリードしていくことで、電車の話題が二人の空間に広がり、二人の中では共に会話をする心地よさ、つまり、
〝人と合っていること″の心地よさが生じていたと思います。
そして、こうした経験を重ねていくことで、次第に著者抜きでも、A君とB君とで電車に関するターンテーキングが自然と行われるようになっていきました。
つまり、この段階になると〝人に合わせる力″がだいぶ育ってきたと言えます。
会話のターンテーキングができるためには、相手の話が聞けること、相手の質問の意図が分かること、相手の質問の意図に対して自分の考えや思いを話す力が必要になります。
つまり、興味のある話題を通して会話の相互的なやり取りができているということです。
そして、その相互性の中に、〝心地よさ″を感じている状態が大切だと言えます。
このように、〝会話″一つ例に見ても、〝人に合わせる力″を育てていくことができるのだと思います。
以上、【療育(発達支援)で大切なこと】〝相手に合わせる力″を育てるために必要なことについて見てきました。
人によっては、相手に合わせる力を育てることに対して否定的な考えを持たれている方もいるかもしれません。
それは、発達障害児は特性上、人に合わせることの難しさがあるため、苦手なことを無理にさせずに配慮する必要があるといった考え方です。
もちろん、この考え方も大切です。
一方で、人は生きていくために、少なからず誰かと共に生活・活動する必要があります。
そのため、〝相手に合わせる力″を育てることは少なからず必要になると著者は考えています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちが人に合わせることが楽しいと感じてもらえるような関わり方、活動内容を創意工夫していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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