療育とは、一般的に、社会の中で生きていく力を育むことを目的としています。
その内容は、例えば、自己肯定感を育むこと、自律スキルやソーシャルスキルの獲得などがあります。
著者の療育経験からも上記の内容は非常に重要なものだと実感していますが、それ以上に大切だと感じるものがあります。
それでは、著者の療育経験の中で見えてきた療育の目的には一体にどのようなものがあるのでしょうか?
そこで、今回は、療育の目的について、臨床発達心理士である著者の経験談から大切だと感じるものについて見ていきたいと思います。
療育の目的について:大切だと感じるもの
著者が考える療育の目的で大切だと感じるものは、1.人との関わりに安心感が持てること、2.人との関わりが楽しいと感じられること、だと考えています。
それでは、次に1と2について具体的に見ていきます。
1.人との関わりに安心感が持てること
療育現場には様々な子どもたちがいます。
例えば、人との関わりに注意が向きにくい子ども、人との関わり方が不器用な子ども、すぐに他児とトラブルになってしまう子ども、大人との関係に不信感をもっている子どもなど様々な子どもたちがいます。
こうした子どもたちの行動背景には、ASDやADHDなどの発達特性があったり、愛着障害や行動障害、反抗挑戦症といった二次障害が見られるケースもあります。
そのため、子どもたちの状態像を深く理解していきながら、長期的展望を持って関係性を築いていく必要があります。
著者が見てきた子どもたちは、大人との関係性ができてくると、安心して活動する様子が増えていきます。
安心感ができてくると、情緒が安定し心に余裕が生まれ、トラブルを起こす頻度が少なくなり、大人に自分から相談してくる様子が増えてきます。
○○さんなら自分のことをわかってくれる、○○さんなら何とか問題を解決してくれる、という信頼関係が、ソーシャルスキルの基盤になると感じています。
2.人との関わりが楽しいと感じられること
人との関わりに楽しさが持てるようになった、他児集団での遊びを喜んで行うようになったなど、子どもたちが事業所にくる目的が〝人との関わり″になったというケースは多くあります。
これでま、一人遊びを好んで行っていた、大人との遊びが中心であった子どもが、子ども同士の関わりに楽しさを感じられるようになったというケースは思いのほか多くあります。
もちろん、こうした他児集団への興味関心は、社会性の発達段階が影響してくるため、無理に集団に入れれば興味が高まるというものではないと思います。
事業所にくる目的が、○○さんと一緒に遊びたい、○○さんと○○遊びをしたい、という〝人との関わり″が中心になることで、社会の中で生きていくために必要な様々なことを学ぶ機会が生まれます。
例えば、ルールがあるとうまく遊べるなど社会に存在するルールの理解、遊びの目標を達成するために他児と協力することから獲得される共同行為の力、他児との関わりを通して自他を知るなど多様性への理解、他児との関わりを通したコミュニケーション能力の獲得、他児集団から認められることを通して獲得する自己肯定感の育ち、など様々なことが学習できます。
そのため、療育現場で著者は、子どもたち一人ひとりが〝何を楽しみにしてきているのか?″〝楽しめる活動があるのか?″ということを理解し作り出すことを心掛けています。
そして、その中で、〝人との関わり″に楽しさが持てるような環境設定や関わり方の工夫をするようにしています。
以上、【療育の目的とは何か】著者の療育経験を通して考えるについて見てきました。
社会には多様な人がおり、様々なルールがあります。
その中で、より良い人生を生きていくためには、〝この世界の中に安心できるものがあり、人との関わりは楽しいものである″といった経験の積み重ねが大切だと思います。
人間は社会的な生き物です。
人との繋がり、関わりなしでは生きていくことができません。
療育の目的とは、この世界は楽しいものである、人との繋がりは安心でき楽しいものである、といったことを身体で気づいてもらうことだと思います。
そのためには、著者自身も人との関わりの楽しさ・大切さを実感していくことが重要であり、また、子どもたちとの関わりの中で、心底楽しかったと思える体験を重ねていきたいと考えています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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