〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを指します。
子どもは養育者との愛着関係を基盤として、その後の対人関係を発展させていきます。
子どもとの愛着関係の中で、〝父親″も重要な存在になります。
それでは、父親が不在の場合には、子どもの発達上どのような影響が生じるのでしょうか?
そこで、今回は、父親との愛着について、父親不在が与える7つの影響について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岡田尊司(2015)父という病.ポプラ新書.」です。
父親不在が与える7つの影響について
著書の中には、〝父親不在″による〝7つのマイナス″となる影響が記載されています。
それでは、次に、それぞれについて具体的に見て行きます。
①母親への依存と母子融合
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親が、子どもの不安を緩和し、安心して歩み出せるように手を引くことで、子どもはスムーズに分離不安を乗り越えられるのだ。
子どもが幼い時期には、母親から安心感を得たいという欲求が強くある一方で、外界への探索欲求も同時に合わせ持っています。
母親への依存と母子融合を乗り越えていくためにも、著書のあるように、父親の存在が重要となり、父親が母親への依存を和らげ乗り越えていくためのサポートをしていく役割が大切だと言えます。
この時期に、母親への依存と母子融合が強まってしまうと、子ども、あるいは母親がどちらか一方の相手に対して支配的になってしまう場合があると考えられています。
②誇大な願望と自己コントロールの弱さ
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親の教えやその行動は、やがてその子の中に取り込まれ、その子を律する行動規範や基本信条となる。
父親の役割の一つに、〝ブレーキ機能″があります。
〝ブレーキ機能″とは、父親の存在や教えが子どもの行動を制御することに影響して、自らを律することに繋がっていきます。
逆に言えば、父親の不在は、自己を制御する機能がうまく育まれないことに繋がり、それが結果として、誇大な願望や自己コントロールの弱さに繋がっていくと考えられています。
③不安が強くストレスに敏感
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親は現実の厳しさを象徴する存在であるとともに、社会へ歩み出していくのを助けるファシリテーターでもある。
著書のあるように、父親の存在は、社会の厳しさ、現実を子どもに理解させる役割もあると言えます。
子どもは父親の背中を見ることで、現実の厳しさを理解していくことができ、それが結果として、不安やストレスへの耐性を高めていくことに繋がります。
父親の不在は、現実の厳しさを知る機会を減らし、空想や妄想など非現実的な世界に留まり続けることを助長し、それが不安やストレスに対する耐性を弱くしてしまうことなると言えます。
④三者関係が苦手
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親の存在によって子どもは三者関係に導入され、複数がからむ関係においても、安心感を脅かされることなく気持ちや活動を共有することを学ぶ。
父親の存在は、母親といった特定の二者関係から脱却するためにも重要な役割があると考えられています。
子どもが一対一の関係性を好み、常にその状態に留まり続けることは社会的なリスクを生む可能性があります。
父親の存在は、三者関係など異なる複数の対人関係を学ぶ良い機会を生むと言えます。
一方で、父親の存在は、三者関係など複数の対人関係を苦手とするものに繋がると言えます。
⑤学業や社会的な成功にも影響
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親の存在、ことに、否定的な意味合いをもつ父親の不在は、子どもの自我理想の発達を妨げ、人間社会や人生に対する否定的な見方を植え付け、向上心の乏しい、投げやりで無気力な状態を生みやすい。
父親の不在は、男女共に学業や社会的な成功にポジティブに影響すると考えられています。
一方で、父親の不在は、著書にあるように、向上心の欠如や無気力感を生みやすく、中でも、思春期以降になるとマイナスな影響が出てくると言われています。
このことは、思春期前までは、母親との関係のみでうまく行っていても、その後の発達において父親の存在の意味が強くなってくることを示しています。
⑥性的アイデンティティの混乱
以下、著書を引用しながら見ていきます。
万一、父親が自分の手本や理想とするには、あまりにもみすぼらしかったり、暴力的だったり、拒否的だったり、不在だった場合、同一化の過程がうまくいかないことになる。
著書のあるように、父親の存在は、同一化の過程、アイデンティティの確立において、男女ともに重要な影響があると言えます。
一方で、父親の不在、あるいは、父親のイメージが否定的であれば、同一化の過程においてマイナスとなる影響があると考えられています。
子どもは親に自分を重ねて自我を形成していく部分があります。
そのため、親へのイメージをどのようにも持っているかどうかが子どもの発達において大切だと言えます。
⑦夫婦関係や子育ての問題
以下、著書を引用しながら見ていきます。
父親の不在によってエディプス段階を通過できていない人では、自分自身が親になることを受け止められず、パニックに近い強い不安を覚えることもある。
著書のあるように、父親の不在は子ども自身が親になった時に、親という状態をうまく受け止められない状態を生む場合もあると考えられています。
このことは、子ども自身が親になる際の心構えは父親との関わりを通して学ぶところも大いにあるからだと言えます。
一方で、子どもは、子ども自身が結婚し親になることを通して、これまでの発達課題を克服するといった場合もあります。
以上、【父親との愛着について】父親不在が与える7つの影響を通して考えるについて見てきました。
今回は父親不在が与える7つの影響として〝マイナス″面を中心に取り上げて見てきました。
父親不在が与えるマイナスな影響がある一方で、子どもは仮に父親がいなくても、安定した愛着関係を形成していくことができますし、様々な対人関係の中で良い愛着関係を築いていくことができる所も大いにあると思います。
そのため、父親が不在だからといってもすべてを悲観する必要はないと思います。
大切なことは、この世界に一人でも自分のことを無条件に愛し信頼してくれる人の存在がいることだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も愛着について理解を深めていきながら、療育現場で関わる子どもたちとより良い関係性を築いていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【アタッチメントネットワークとは何か?】療育経験を通して考える」
関連記事:「愛着形成で大切なこと【愛着形成は1人から始まる】」
岡田尊司(2015)父という病.ポプラ新書.