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発達的視点

【支援の質を変える発達的視点】人を理解するための経験×理論の融合

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人の発達を理解し支援していく上で、どのような視点が必要なのか思い悩んだことはありませんか?

人の発達は様々な要素が相互に関連し合いながら育っていきます。

著者は療育現場において、発達に躓きを抱えている子どもへの支援をしているため、人の発達の育ちに関して考える機会が多くあります。

また、かつての著者は人の発達をどのように理解していけば良いか試行錯誤の連続でした。

そうした中で、一つに突破口として〝発達的視点″への気づきを得たことが大きかったと実感しています。

 

今回は、現場経験+理論+書籍の視点から、支援の質を変える発達的視点についてお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

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目次

1.人の発達をどのように理解していくかに迷走していた著者のエピソード

2.人の発達を理解する理論・書籍

3.人の発達に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

4.まとめ

 

 

1.人の発達をどのように理解していくかに迷走していた著者のエピソード

療育現場に携わり始めた著者は、目の前の子どもたちの行動や感情に目を向けることが多く、即時的な対応に終始していることが多くありました。

例えば、施設内を走り回る子どもへの対応法、遊びに興味を見せない子どもへの対応法、物の管理が難しい子どもへの対応法、他児に手が出る子どもへの対応法、癇癪・パニックを直ぐに起こす子どもへの対応法、ルールを守れない子どもへの対応法など、どちらかと言えば、子どものネガティブ行動をどう改善すべきか、それも、即時的な対応法を考えることが多くありました。

もちろん、こうして視点は、深堀していくと〝応用行動分析学″などに通じていくなど、問題行動(不適応行動)の改善において重要な視点に繋げていくこともできます。

一方で、長く子どもと関わることの多い著者にとって、目の前の行動(感情も含め)にフォーカスした対応だけでは、どこか子どもの理解において府に落ちない感覚がありました

その後、日々の療育経験を積み重ねていく中で、子どもたちの成長は長い時間の中でゆっくりと育っていくもの、非常に個人差があるものだということに気づかされていきました。

そのため、長期的な展望を持って子どもを支援すること、子どもを取り巻く環境が与える影響なども十分に考慮していく必要性・重要性を発見していくことができました。

その結果として、子どもへの支援を考える上で、行動へのアプローチも大切でありながら、長い時間の中で子どもを理解するという視点、つまり、〝発達的視点″の持つ重要性が徐々に理解できるようになっていきました。

 

 

2.人の発達を理解する理論・書籍

人の発達を理解する視点(〝発達的視点″)に関して、著者が非常に参考になった書籍を以下に紹介致します。

書籍①「麻生武・浜田寿美男(編)(2005)よくわかる臨床発達心理学第3版.ミネルヴァ書房.

書籍②「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

書籍③「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.

 

なお、書籍①②に関しては、改訂版が出版されています。

書籍①:改訂版「よくわかる臨床発達心理学[第4版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

書籍②:改訂版「新訂増補 子どもから大人への発達精神医学: 神経発達症の理解と支援

 

以上の書籍を踏まえて、発達を理解する上でのキーポイントは1.臨床発達心理学への理解2.精神の問題か?発達の問題か?3.未学習と誤学習の3つが重要だと考えます。

 

それでは、次に、3つのキーポイントについて、それぞれ見ていきます。

 

1.臨床発達心理学への理解

臨床発達心理学は〝発達的視点″を重視した学問領域です。

そのため、臨床発達心理学について学びを深めていくことで、人の発達理解に精通していくことができます。

それでは、書籍①を引用しながら、臨床発達心理学の定義について見ていきます。

臨床発達心理学は「人の生涯にわたる生物・心理・社会的側面からなる生活文脈の場で起こり得る、さまざまな兆候・問題・障害を包含した時間的・発生的な過程から、人間の心的機構の解明を行い、また、そのことを通して、具体的な発達支援の方法論の検討を行う人間発達の領域」と定義

 

以上が臨床発達心理学の定義とされていますが、中でも、大切な視点が、【個人要因×環境要因×時間軸】の視点を持って人を理解し支援するというものだと考えます。

【個人要因】においては、様々な障害特性や性格特徴、さらには、発達の機能間連関(感覚・運動、認知、言語、情動・社会性などが相互に関連)の理解が必要です。

【環境要因】においては、子どもを取り巻く様々な環境(ブロンフェンブレンナーの生態学的システム理論)の理解が必要です。

【時間軸】においては、過去↔現在↔未来といった繋がりの中での理解が必要です。

これだけ、子どもの育ち・発達を理解していく上で、必要な様々な要因があるといった理解が大切です。

例えば、障害特性といった【個人要因】の理解では支援がうまくいかない場合において、【環境要因】に目を向け環境調整を行うことで支援がよりうまくいくことがあります。

また、【個人要因】×【環境要因】に関する理解と支援に行き詰っている際にも、【時間軸】の視点を加える、例えば、少し先の未来を見据えた際に、現状の課題のハードルが高いといった理解ができれば、支援内容を工夫する余地が出てきます。

このように、臨床発達心理学で大切となる〝発達的視点″の認識を日頃から意識していくことで、支援の幅を広げていくことできると言えます。

 

関連記事:「発達の機能間連関とは?-療育経験を通してその大切さを考える-

 

 

2.精神の問題か?発達の問題か?

パーソナリティ障害など大人になってから精神の問題を抱えている人は多くいます。

ここで、重要になるのがこうした人の中には、発達障害など発達に問題を抱えているケースも混在しているということです。

それでは、この点について、書籍②を引用しながら見ていきます。

成人期以降の精神障害の臨床では、その障害の成り立ちに発達障害がどのような役割を果たしているのかを考慮する必要がある。言い換えると、「元々どんな人だったのか」を考えるにあたり「生活史」、「パーソナリティ」に加えて「発達」の視点を盛り込むことである。

 

著書にあるように、成人期以降の精神障害の症例に対しても、発達の視点はとても重要だということです。

これは、先に見た時間軸を過去に辿ることで、そもそも、発達に躓きがあったのか?という理解を加えることで、本人の正確な状態理解に繋げていくことできます。

仮に、発達障害があり二次障害の症状としての精神障害が発症してケース、あるいは、発達障害がなく精神障害が発症しているケースによって支援方法が変わってくるからです。

著者は職業柄、成人期以降の発達障害のある人との関わりが多くありますが、こうした人たちとの関わりを通して、自分の身近にいる精神障害(だと想定される)のある人の中には、一定数は発達に問題を抱えていると思われるケースが予想以上に多いと感じることがあります。

重要な点は、より正確な状態理解をしていくために、その人のこれまでの発達過程を紐解いていくこと、つまり、〝発達的視点″を持つことが重要であり、正確な状態理解が成されず支援を継続していくことは症状の改善に繋げていくことを困難にしていきます。

また、成人期以降の人の発達を理解することは、子どもの支援においても有効な示唆を得る(二次障害の予防の視点など)ことができると感じています。

 

 

3.未学習と誤学習

〝発達的視点″の理解を深めていく上で、〝未学習″と〝誤学習″といった用語の理解はとても大切です。

それでは、まずは、書籍③を踏まえて、用語の説明をしていきます。

「未学習」とは、「自己挑戦力」の弱さ、つまり、普通の環境だけでは、自らチャレンジする力が弱く、経験の積み上げが進まない、ことを言います。

「誤学習」とは、「自己修正能力の弱さ」、つまり、普通の環境だけでは、なかなか自分から学び直していく力が弱く、修正がききにくい、ことを言います。

そして、〝発達的視点″とは、「未学習」と「誤学習」が現状の子どもの姿を作り出しているという考え方です。

 

著者は、発達に躓きを抱えている子どもとの多くの関わりから、〝未学習″と〝誤学習″を通して子どもを理解することは、子どもの発達を理解していく上で、非常に重要なことだと感じています。

その理由として、発達障害のある子どもは、通常の環境で何も配慮や支援を受けずに適応することが難しいことが多く、調整された環境が合って初めて〝自己挑戦力″を高めていくことができる、つまり、〝未学習″を改善していくことができると感じるからです。

同時に、調整された環境が合って初めて、〝自己修正力″を高めていくことができる、つまり、〝誤学習″を改善していくことができると感じるからです。

こうした個々にあった環境調整・支援の必要性は、定型発達児と大きく異なる点だと言えます。

 


さらに、〝未学習″と〝誤学習″を通して〝発達のメカニズム″を理解していくことも大切です。

この点について、以下、書籍③を引用しながら見ていきます。

「なぜ」「いかにして」できるようになっていくのかという「発達のメカニズム」を知ることが大切になるからです。つまずきをもった子どもたちの「実践」や「発達臨床」では、この子の何が「未学習」で、何が「誤学習」だったかを読みとり、意味づけ、そこに対してアプローチを行うことが大切なのです。

 

〝発達的視点″の認識を深めていくということは、〝発達のメカニズム″に精通していくことでもあります。

つまり、子どもの躓きに対して、〝なぜ″〝どのようにして(いかにして)″といった〝原因仮説″と〝支援仮説″を立てることが必要となります。

そのためには、〝未学習″と〝誤学習″をキーワードに、子どもの躓きを理解していく視点、〝発達のメカニズム″を理解していくことが、より良い支援に繋げていく手がかりとなります。

 

著者は、現場で関わる子どもたちを見て様々な疑問を持つことがあます。

それは、冒頭で紹介した例として、施設内を走り回る子どもへの対応法→なぜ走り回るのか?どのようにして支援していけば良いか?や、遊びに興味を見せない子どもへの対応法→なぜ興味を見せないのか?どのようにして支援をしていけば良いか?といった多くの疑問を持ち考え続けていくことで〝発達のメカニズム″を深めていくことに繋げていくことができると感じています。

〝発達のメカニズム″を知ることは、〝なぜ″を問い続けること→人の発達を理解していくこと、〝どのようにして(いかにして)″を問い続けること→オーダーメイドの支援の在り方を発想していくことに繋げていくことができると言えます。

また、〝発達のメカニズム″は、個人差はありますが、その中でも、一定の順序性・方向性があることいった理解も大切です。

つまり、〝発達のメカニズム″をおさえていきながら、現状の子どもの育ちを正確に捉えていくことで、そもそも無理な課題設定や成果を得ることが難しい課題設定を回避することに繋げていくことができます。

 

関連記事:「療育的視点について-現場の「なぜ」に応えるために-

 

 

3.人の発達に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

著者は、これまで見てきた書籍等を参考に、日々、子どもの発達を理解することを考えていきました。

中でも、〝発達的視点″も持つことで、著者自身、子どもの理解・支援において幅が広がっていったと感じています。

それはつまり、人の発達→【個人要因×環境要因×時間軸】といった全体像をより深く把握していくことに目が向くようになったことでもあます。

 

個人要因を意識することで、発達特性への理解や様々な発達の機能間連関の視点を深めることができ、定型発達児とは異なる子どもの発達理解の幅が広がっていったと感じています。

環境要因を意識することで、子どもに合った人的環境・物的環境を捉える視点が二次障害の予防の観点も含めて広がっていったと思います。

時間軸を意識することで、例えば、長期の視座に立って子どもを見るようになったこと(目の前の現象にフォーカスした対応に限らず)で、無理な課題設定をすることが少なくなり、ゆっくりと子どもの育ちに向き合う心構えや支援ができるようになっていったと思います。

さらに、時間軸に関して言えば、誤学習″の視点から、二次的な症状の傾向などは、これまでの誤った学習の積み重ねで形成されたのではないかという仮説と、それに基づく対応策を考える視点の広がり、〝未学習″の視点から、これまで学習する環境がなかったという仮説(社会性の獲得など)を踏まえて、いかにより良い体験を療育の中で作っていく必要があるのかという対応策を考える視点の広がりを持つことができるようになったと感じています。

 

このように、〝発達的視点″を持つことで、著者自身の子どもへの(大人も含めて)理解の広がり、オーダーメイドの支援の促進に寄与したと実感しています。

さらに、〝発達的視点″の獲得には、日々の療育経験の積み重ねによって、様々な子どもを長期にわたって見たきた経験値が非常に重要だと思います。

こうした経験値と、その中で、様々な疑問を持ち考え続けた思考経験が、人の発達を理解する最善の方法だと改めて感じています。

 

 

4.まとめ

〝発達的視点″を理解する上で重要な学問領域として〝臨床発達心理学″があります。

臨床発達心理学では、発達的視点を持つことを重視しており、それは人の発達について【個人要因×環境要因×時間軸】を踏まえて理解をしていくことです。

発達を理解することは、何も子どもを対象としたものに限らず、成人期以降の人の理解においても重要だと考えられています。

〝発達的視点″には、〝未学習″と〝誤学習″が現状の子どもの姿を作り出しているという考え方もあります。

〝未学習″と〝誤学習″を通して、〝発達のメカニズム″を理解していくこと、そして、支援方法を考えていくことは、療育上とても重要だと言えます。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.
  • 麻生武・浜田寿美男(編)(2005)よくわかる臨床発達心理学第3版.ミネルヴァ書房.
  • 木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.

 

今回取り上げた書籍の改訂版

よくわかる臨床発達心理学[第4版] (やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)

新訂増補 子どもから大人への発達精神医学: 神経発達症の理解と支援

 

発達に関する理解を深める上でお勧め書籍紹介

関連記事:「発達心理学に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

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