発達障害の中でも、自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)の人たちは〝感覚の問題″が多く見られると言われています。
例えば、工事音や子どもの鳴き声など大きな音に敏感、特定の触感に強い抵抗を見せる、など〝感覚過敏″の問題が見られます。
一方で、痛みには鈍感、暑さや寒さには鈍感など、〝感覚鈍麻″も見られます。
それでは、感覚の問題に繋がる感覚過敏と感覚鈍麻は一人の人の中で混在するのでしょうか?
そこで、今回は、感覚過敏と感覚鈍麻は混在するのか?について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「井手正和(2022)発達障害の人には世界がどう見えるのか.SB新書.」です。
感覚過敏と感覚鈍麻は混在するのか?
著書には、〝2007年にアメリカの研究者Tomchekを中心にASDを対象として実施された感覚に関する調査研究″の結果が記載されています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
注目すべきは、ASD児が聴覚過敏(77.6%)、触覚過敏(60.9%)、味覚・嗅覚過敏(54.1%)というきわめて高い結果を示したのと同時に、感覚鈍麻に関係するスコアで86.1%のASD児がきわめて高い得点を示したことです。
つまり、「一人の中に感覚過敏と感覚鈍麻が同居する」ということがわかってきたのです。
海外の研究者がASDを対象に行った感覚に関する調査研究によれば、多くの自閉症児の中で、〝感覚過敏と感覚鈍麻は混在する″ということが分かっています。
中でも、感覚鈍麻に関係するスコアが86.1%という結果は非常に高い数値です。
つまり、一人の人の中に、感覚への過敏さがありながらも、同時に、感覚の鈍感さ(鈍麻)も見られる傾向が高いということです。
もちろん、感覚の問題には個人差があります。
問題となる感覚の種類や強度なども人によって違いがあります。
ここでは、感覚の問題として見られる〝感覚過敏″と〝感覚鈍麻″は混在するということに着目して話を進めていきたいと思います。
著者のコメント
著者はこれまで療育現場などを中心に多くの自閉症児・者と関わってきた経験があります。
その中で、感覚の問題は非常に多く見られます。
そして、感覚過敏と感覚鈍麻が同居する人も多いと実感しています。
今回は、当時、未就学児であった自閉症A君を例に見ていきます。
A君には、感覚の問題があり、そして、感覚過敏と感覚鈍麻の両方が見られました。
〝感覚過敏″として、最も強く出ていたのが、〝聴覚過敏″です。
〝聴覚過敏″は、例えば、他児の泣き声、特定の楽器音、大勢の人の声など様々なものがありました。
A君の〝聴覚過敏″さは、耳をふさぐ様子から過敏さを感じ取ることができました。
そして、苦手な音を回避する様子からも推測することができました。
例えば、よく泣く子どもがいる付近には近づかない、といったように苦手な刺激を回避するというものです。
〝感覚過敏″は、A君の心身状態とも相関していたようにも思います。
A君の状態が悪いと、過敏さは高まっていたと感じる経験が多くあったと思います。
一方で、A君には、〝感覚鈍麻″もよく見られていました。
まずは、〝痛みへの鈍感さ″です。
A君は、活動中に転んだり、道具を使っている際に当たり所が悪くてケガをすることがありました。
しかし、A君は泣いたり、痛がる様子はほとんどありませんでした。
その他、〝寒さへの鈍感さ″もまた見られていました。
A君は少し暑さを感じるとすぐに服を脱ごうとする様子がありました。
冬の寒い時期でも薄着で過ごすことが多かったことから、寒さをあまり感じない子どもであったと思います。
このように、A君には、感覚過敏と感覚鈍麻が同時に見られていたいと思います。。
A君に限らず、多くの自閉症児には、感覚過敏と感覚鈍麻が混在していると感じるケースはこれまで多くあったように思います。
大切なことは、目には見えにくい感覚の問題の種類や強度を理解し、安心できる環境を整えていくことだと思います。
以上、【感覚過敏と感覚鈍麻は混在するのか?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
感覚の問題は知識を通さないと理解が及ばないことが多くあると思います。
それは、共感・共有がしにくい世界だからです。
特に今回見てきたように、定型発達児・者とASD児・者には感覚の世界が大きく異なると言われています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚の世界を深く理解していけるように、療育現場での経験だけではなく、感覚統合理論からの知識も学び続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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