「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論には、一次の心の理論から二次の心の理論へ発達段階があります。
心の理論を測るテストとして、〝誤信念課題″があります。
つまり、誤信念課題をクリアできれば心の理論を獲得したということが言えます。
それでは、心の理論を理解し支援に活かしていくためには、テストの通過状態(つまり、心の理論を獲得した・していない)を見るという視点以外に、どのようなことが大切となるのでしょうか?
そこで、今回は、心の理論への支援で大切にしたいことについて、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
心の理論への支援で大切にしたいこと
著書には、心の理論の研究課題が記載されています。そして、その課題を踏まえて心の理論への支援課題も呈示されています。
それでは、著書を引用しながらこの点について見ていきます。
「心の理論」研究も同様のロジックで研究がなされ、3歳は誤信念課題が不通過で、自他の心的状態の能力が「ない」時期として、規定されるのにとどまり、この時期を生きる子どもの固有の価値が正当に評価されていなかった。
それぞれの年齢段階には固有の価値があるという視座から、発達心理学の研究成果をとらえ直すことは、保育や支援の問題を考える上で重要な課題である。
著書の内容から、心の理論の研究課題では、誤信念課題に〝正当した″〝していない″といった〝できる″〝できない″といった点に重きが置かれていることから、〝できない″時期の固有の発達が軽視されてしまっているという課題があると記載されています。
その上で、心の理論への支援で大切となることは、心の理論を獲得していない時期の発達にもしっかりと目を向けていくこと、その時期に固有の価値があるという視点を再考することだと考えられています。
もちろん、これは、一次の心の理論を獲得した後も同様に、二次の心の理論を〝獲得した″〝していない″に課題を見出すだけではなく、今を生きる子どものたちの固有の発達を捉えていくことが支援においても大切だと言えます。
それでは、この点について著者の療育経験からさらに深堀していきたいと思います。
著者の経験談
著者の療育現場には、発達障害など発達に躓きのある子どもたちがきています。
こうした子どもたちは、定型発達児よりも発達がゆっくりであったり、凸凹した発達が見られます。
心の理論という視点では、なかなか獲得が難しいと感じる子どもから、一次の心の理論は獲得できるも、その後の二次の心の理論となると難しいと感じる子どももいます。
こうした視点は、発達をある里程標に基づいて判断するという視点(○歳に○○ができる)ですが、そもそも人の発達は個人間差・個人内差が大きいため、一人ひとりの今の発達を理解していくことがとても大切だと感じます。
そして、〝今″を理解するためには、過去についても併せて理解していくことが必要になります。
現場にいると、子どもたちは、〝今″をとても大切に生きていると感じます。
〝今″の発達が仮に心の理論を獲得していない時期であった場合にも、その子のなりの固有の発達の意味があります。
例えば、感覚段階であれば、五感を通して様々な感覚を体験する楽しさを身体全体でもって体感する時期になります。
また、心の理論を獲得する前の段階では、他者と心が通じ合う喜び、様々な感情を分かち合う経験、他者とある対象を共有するなどその時期だからこそ多く見られる固有の価値があると思います。
心の理論を獲得することは大切なことですが、一人ひとがこの世界から固有の意味を身体経験から学んでいるといった独自の世界に寄り添う姿勢がとても大切だと感じています。
こうした姿勢が心の理論への支援においても、直接的あるいは間接的にポジティブな影響を与えると考えます。
以上、【心の理論への支援で大切にしたいこと】療育経験を通して考えるについて見てきました。
心の理論はその人が様々な経験を通して少しずつ身につけていくものです。
そのため、支援において大切なことは、一人ひとりの固有の発達についての理解を深めていきながら、今何に困っているのか?今何に夢中であるのか?など、一人ひとりの発達に寄り添うことだと思います。
その延長線上に支援という視点が開けてくるのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論への理解を深めていくと同時に、一人ひとりの今の発達についての理解も大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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