「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論の獲得は、定型発達児であると4歳頃だと言われており、自閉症児ではそれよりも遅れて獲得することが分かっています。
一方で、心の理論の獲得は単純に年齢が影響しているのかという疑問もあります。
著者は療育現場で様々な自閉症児と関わる機会がありますが、子どもたちの発達過程は非常に多様であると実感しています。
心の理論の獲得過程も多様であると直感的に理解はしているため、単純に年齢を基準に考えることは定型発達児とは頃なるように思えます。
それでは、心の理論の獲得には、年齢以外の観点からどのような発達要因が影響してくるのでしょうか?
そこで、今回は、心の理論と言語能力の関係について、臨床発達心理士である著者の自閉症児との関わりも交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
心の理論と言語能力の関係について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
メタ分析の結果、「心の理論」と言語能力の間に密接な関連性が見出されたが、縦断的データの分析では、先行する言語能力が後続する「心の理論」の成績を予測するのであり、その逆ではないということが示されている。
著書の内容では、心の理論の獲得過程には、言語能力が影響しているということです。
つまり、言語能力が発達することで、心の理論が獲得できるという関連性があるということです。
この観点から、自閉症などの発達障害において、単純に○歳になれば心の理論が獲得できるというものではないということがわかります。
心の理論の獲得においては、年齢ではなく、言語発達年齢の視点が大切だということです。
また、自閉症児は定型発達児とは異なり、他者の心を推論する際に、直感的な推論とは異なり、言葉による論理的な推論により他者の心を理解すると言われています。
このことからも、言語能力の育ちは非常に大切だと考えられます。
著者の経験談
著者の療育現場(小学生が対象)にも様々な自閉症児がいます。
彼らとの関わりの中で、他者の心を理解する際に、言葉を多く使用していると感じます。
例えば、○○君は○○の出来事があって悲しい気持ちになっているから優しいことばをかけてあげよう、○○さんは、最近忙しいから疲れているのかも、など他者の心を察する言葉を独り言、あるいは大人に問いかけて確認する様子があります。
また、○○君は○○の出来事があり悲しい気持ちになっているからそってしておいてね、など関わるスタッフが人の心を言葉で説明することで納得することも多いように思えます。
一方、こうした人の心を推測する際に、定型発達児はその場面・状況を見て直感的に推論することが多いように思えます。
著者の小学生時代にも、多く言葉を交わしていなくても、以心伝心で心が通い合えた、表情など行動を見ればなんとなく相手の心情が分かったという体験があります。
一方で、自閉症児は、直感的に人の心を理解する(推論する)というよりも、言語によって論理的に推論する(理解する)傾向があるように思います。
そのため、他者の心を理解していくためには、ある程度、言語能力の育ちが必要となるのは納得がいきます。
以上、【心の理論と言語能力の関係について】自閉症児との療育経験を通した関わりから考えるについて見てきました。
こうして振り返って見ると、定型発達児と自閉症児との間には、心の理解のプロセスそのものに違いがあるのではないかと感じます。
もちろん、自閉症児においても、楽しい気持ち、悲しい気持ち、イライラした気持ちなど、シンプルな感情は通じあうことも多くあります。
一方で、複雑な感情の理解、様々な人たちが関わる中で生じる人物間での感情の理解などが難しいように思います。
そして、こうした複雑な感情を理解する助けとなるのが言語による説明などが重要な役割を占めています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論についての理解を深めていきながら、療育現場で関わる子どもたちの理解と支援に繋げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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