子どもたち同士の遊びの中には、〝異年齢集団″の遊びもあります。
年上の子ども、そして、年下の子どもとの関わりの中で子どもたちは様々なことを学んでいきます。
それでは、年下の子どもにとって、年上の子どもと遊ぶことにはどのような価値があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、年上と遊ぶことの価値について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら異年齢における遊びの大切さについて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「ピーター・グレイ(著)吉田新一朗(訳)(2018)遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる.築地書館.」です。
年上と遊ぶことの価値とは何か?異年齢における遊びの大切さについて
以下、著書を引用しながら見ていきます。
年長の子どもは、大人よりも年少の子どものエネルギーのレベル、理解のレベル、そしてどんな活動をしたいのかということに関してはるかに近い立場にあります。従って、結果的に年少者の「誰かの助けでできるようになる領域」で振る舞うことがより自然にできるのです。
著書の中では、異年齢の遊びの大切さとして、年下の子どもが年上の子どもと遊ぶことの価値として、近い立場で接することの利点を取り上げています。
つまり、少し年上の子どもは大人と違い、年下の子どもの活動レベルが非常に近い状態であるため、より自然な関わりができるということです。
年上が年下の子どもに教える内容は、近い立場であるからこそ、自然な形で教える・伝達することを可能とします。
心理学者のヴィゴツキーは、〝発達の最近接領域″といったキーワードをもとに教育について説明しています。
〝発達の最近接領域″から見た教育とは、一人でできる所と、誰かの助けでできる領域の差分のことを言います。
例えば、計算の仕方がわからない子どもが、計算の仕方がわかる人から計算方法を教えてもらうことによって解けるようになる、などがあります(この差を〝発達の最近接領域″という)。
上記の引用文にある〝誰かの助けでできるようになる領域″とはまさに〝発達の最近接領域″のことであり、教える内容にもよりますが、年齢が近い子ども同士の方が、うまく教えられることがあるということです。
引き続き著書を引用しながら見ていきます。
さらに、年長者は自分が年少者の長期的な教育の責任をもっているとは考えていないので、年少者が欲しい、あるいは必要とするもの以上の情報を提供することもありません。彼らは退屈したり、見下したりすることもありません。
著書の内容から、年下の子どもを見る年上の子どもには、責任がないこと、過度に必要以上の情報を提供しないこと、平等な立場で接することができること、などが大人との違いとしてあると考えられています。
大人は子どもと接する時に、親、教師など様々な立場があるため、責任が伴ってきます。
また、大人はこれまでの経験から様々情報を知っているため必要以上に子どもにその情報を提供してしまう場合もあります。
また、大人が子どもとの関わりに退屈感を覚えたり、立場が低い人という見方をしてしまう場合もあります。
年上の子どもにとって以上の認識、関わり方などがない(少ない)ため、非常に自然な関わり方ができることがあるということです。
著者の経験談
著者の療育現場では〝異年齢″の子どもたちの遊びが活発に見られます。
今回は、6年生のAちゃんと2年生のBちゃんの二人の関係性について見ていきます。
Aちゃんは世話好きな性格もあり、年下の子どもに色々と教えてあげようとする姿が多く見られます。
例えば、荷物の整理の仕方、折り紙のやり方、ままごと遊びをリードする、など様々な遊びの中でBちゃんに教えてあげようとする姿が見られます。
著者がBちゃんに伝える・教える以上にAちゃんの関わり・声掛けの方が理解して動く場合も多くあります。
Aちゃんの様子をよく観察していると、関わり方がとても自然であるといった印象を受けます。
つまり、Bちゃんに非常に近い立場(近い目線)で物事を教えたり、遊びも近い立場で楽しむ様子が多いため、こうした関わり方がBちゃんにとって伝わりやすいもの、共感しやすいものとなっていると感じます。
次第に二人の関係性が深まっていくと、BちゃんはよくAちゃんの行動を観察するようになります。
そして、直接教えてもらわなくても観察し真似ることで覚えられる部分が増えていくという印象もあります。
このように、大人以上に〝異年齢″での子どもの関わりの方が物事を楽しめたり、様々な事を学べる部分があるのだと感じます。
以上、【年上と遊ぶことの価値とは何か?】異年齢における遊びの大切さについて見てきました。
私たちは、何かを教えられる、影響を受けるといったその対象の中に、少し年上の人からの刺激を強く受ける場合があります。
遊びの中にもこうした影響は多く存在しています。
異年齢との関わりが減少傾向にある現代社会において、幅を持った異年齢との関わりによって得られることを理解していくことは大切だと感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で異年齢集団をうまく作り上げていけるように、子ども同士の関わりのポジティブな面を見つけ出していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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ピーター・グレイ(著)吉田新一朗(訳)(2018)遊びが学びに欠かせないわけ 自立した学び手を育てる.築地書館.