著者の療育現場には、発達に躓きがある子どもたちがきています。
その中で、多くの子どもたちに共通するものが〝実行機能の弱さ″だと感じています。
〝実行機能″とは、〝遂行能力″や〝やり遂げる力″とも言われています。
子どもたちは様々な活動に向けて自発的に行動する様子がありますが、目標に向けて行動するどこかの過程で躓くことが多くあります。
それでは、実行機能への支援にはどのような方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、実行機能への支援で大切な足場づくりについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「森口佑介(2021)子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か.PHP新書.」です。
実行機能への支援:足場づくりについて
以下、著書を引用しながら見ていきます。
実行機能や向社会的行動を育むうえで大事とされているのが、足場づくりです。
足場づくりとは、子どもが自分でできないことを、親を含めた周りの他者が少しだけ支援することです。
実行機能を育むために必要な足場づくりとは、自分で目標を達成するための支えです。
著書の内容から、実行機能への支援方法として、〝足場づくり″の視点が大切だと考えられています。
〝足場づくり″とは、子どもが一人でできないことを周囲が少しだけサポートすることで、自発的な目標を達成する実行機能の力を育むために重要だとされています。
〝足場づくり″を行う前提として、子どもが独力でできる力を見極めておく必要があります。
例えば、上着を一人で脱ぐことができない子どもに対して、どこまでなら一人でできるのか、そして、その中で最小限のサポートはどこにあるのか、といったことを考えることになります。
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著者の経験談
それでは、いくつか事例を見ていきます。
事例1:ブロックタワーを完成させたいA君
小学校低学年のA君はブロック遊びに夢中な男子です。
ブロックのパーツを一つずつ組み合わせながら、ビルのようなタワーを作ることを目標としています。
この場合、A君が立てた目標はブロックタワーを完成させることであり、目標達成に向けて自発的に遊びはじめることが多くあります。
A君の目標は、6階建てのビルを想定していましたが、どうしても4階をこえると一人で積み上げることが難しくなります。
そこで、著者は4階まで積みあがった時点でブロックのビルを手で支えるサポートを行いました。
その結果、A君は5~6階の建設に成功することができました。
このように、A君が自発的に立てた目標があり、その目標に向けて〝実行機能″が働きます。
〝足場づくり″を通した〝実行機能″の支援とは、A君が目標に向けて活動を進めて行く中での躓きを把握して最小限の手助けを行う(ブロックタワーを支える)ことです。
事例2:時間内に複数のやりたいことを完了させたいB君
小学校高学年のB君は放課後の活動を利用して、宿題、友人と遊ぶ、イラストを描く、といった複数のやりたいことがある男子です。
時間管理や優先順位を立てることの苦手なB君は、複数の予定を完了させることが難しい場面がよくあります。
そこで、著者は、優先順位を立てること(宿題→友人と遊ぶ→イラストを描く)をB君の意見を聞きながら一緒に組み立てました。
そして、B君とそれぞれに要する時間(宿題を完了させる目標時間や友人との遊び・イラストを描くのB君が求める時間)を確認して一緒に予定を立てるようにしました。
その結果、時々、注意がそれてしまうこともありますが、少しずつ、時間を意識しながら、事前に立てた予定通り活動を進め完了させる様子が増えていきました。
このように、B君の〝実行機能の弱さ″を補うために、B君が最も苦手とする優先順位の立て方と時間管理について、著者が〝足場″を作ることで支援がうまく進んでいった事例になります。
以上、【実行機能への支援で大切な足場づくりについて】療育経験を通して考えるについて見てきました。
実行機能には様々な機能があります。
そのため、関わる子どもがどの部分に特に苦手さを持っているのかを理解することが支援の前提としてとても大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も実行機能の観点から、療育現場でできる支援を実践していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
森口佑介(2021)子どもの発達格差 将来を左右する要因は何か.PHP新書.