著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育(発達支援)をしてきています。
子どもとの関わりにおいて、非常に大切なものとして〝信頼関係の構築″があります。
子どもとの間で信頼関係を構築していくためには、共通して大切となる原則があると感じています。
それでは、子どもとの間で信頼関係を構築していくためには、どのような点に留意していけばよいのでしょうか?
そこで、今回は、子どもとの信頼関係の構築において大切なことについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、アクスラインの8つの原則を例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.」です。
アクスラインの8原則について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
1.よい治療関係を成立させる(=ラポール形成)
2.あるがままの受容を行う
3.受容的雰囲気をつくる
4.適切な情緒的反射を行う
5.子どもに自信と責任をもたせる
6.非指示的態度をとる
7.ゆっくり進む過程であるため、進行を急がない
8.必要な制限を与える
〝アクスラインの8原則″は、〝遊戯療法″などで活用されているものです。
〝遊戯療法″とは、主に子どもを対象に、〝遊び″を媒介として行われる心理療法のことを言います。
〝遊戯療法″は、決まった空間において、セラピストと子どもによって行われるため、著者がいる放課後等デイサービスなどの療育現場とは異なる面も多くあります。
一方で、著者の療育現場での経験を踏まえて見ても、〝アクスラインの8原則″は子どもとの信頼関係の構築において、ヒントを与えてくれる内容が多く含まれていると考えます。
それでは、次に、〝アクスラインの8原則″について、著者の療育経験も交えながら具体的に見ていきます。
1.よい治療関係を成立させる(=ラポール形成)
まずは、信頼関係の構築=〝ラポール形成″です。
子どもにとって、この人なら安心できるといった感覚をもってもらうことが大切です。
著者の療育現場にも、様々なタイプの子どもたちがいます。
中には、発達特性以外の対応が求められる、例えば、愛着障害(その傾向があるも含め)など、対人関係において課題のある子どももいます。
全ての子どもたちにおいて、まずは、この人は安心できる・大丈夫だといった感覚を持ってもらうことが、その後の療育の行く末を方向づけるほど重要なものだと感じています。
2.あるがままの受容を行う
大人にとっては、子どもの行動がよく分からないこと、あるいは、○○して欲しい、○○する必要がある、といった考えなどが浮かぶことがよくあります。
そのため、関わり手(大人)による解釈が大きく入り込むことがあります。
〝あるがままの受容を行う″こととは、関わり手の解釈をいったん横に置き、子どもからの発信をそのまま許容することだと言えます。
著者が関わる子どもたち一人ひとりは、様々な思いをもって行動しています。
そのため、まずは、子どもの思いをあるがままに受け止める姿勢が初期段階において大切だと感じています。
3.受容的雰囲気をつくる
言葉では肯定的なことを言っていても、言葉以外が持つ情報(非言語的要素)が肯定的でないと、子どもは警戒心や緊張、不安が高まります。
そのため、言語と非言語情報を含めて、受容的な雰囲気を作ることが大切です。
著者の療育現場では、関わり手の大人と大人同士が作り出す受容的な雰囲気が高ければ高いほど、子どもたちは安心して過ごすことができるのだと実感しています。
そのため、普段から、その〝場(人)″が子どもにとって安心できるものになっているのかを振り返るようにしています。
4.適切な情緒的反射を行う
子どもは遊びを通して様々な発信をしてきます。
もちろん、その中には、言葉以外の情報も含まれると思います。
信頼関係の構築において、子どもの発信に対して、リアクション(情緒的反応も含め)をしっかりとることが大切です。
著者も子どもからの発信に対して、言葉以外にも、声のトーンや表情、身振り手振りなど様々なリアクションを取るように心がけています。
信頼関係が深まっていくと、気持ちの表現が豊かになってくるため、こうした情緒的交流の視点もまた関わりにおいて大切だと感じています。
5.子どもに自信と責任をもたせる
子どもに主体性が出てくると、それを応援する姿勢が必要になってきます。
また、主体的に行動するもうまく行かないときのサポートもまた大切です。
このように、子どもがある思いを持って主体的に行動する中で獲得する自信の積み重ねと、失敗も含め自らの行動に責任を持ってもらうこともまた大切です。
著者も子ども一人ひとりが、自分で決めたことに自分で責任を持つことは、自信や意思決定の獲得の力を高める上でとても大切だと感じています。
そのため、子どもが主体的に取り組んでいる過程を褒めたり、うまくいかない時に一緒に振り返ることを大切にしています。
6.非指示的態度をとる
信頼関係の構築において、関わり手が指示を出すのではなく、子どもが思ったことをやる姿勢を尊重していくことが大切です。
もちろん、子どもがやってみようと思っているも、なかなか、その一歩が踏み出せない場合もあります。
その気持ちを汲み、背中を押してみることも必要です。
著者も遊びの中で子どもたちの〝やってみたい!″をできるだけ応援するようにしています。
このように、子どもの思い(主体性・能動性)を許容したり、その思いを引き出す関わりは、非指示的態度をとることで伸びていくのだと感じています。
7.ゆっくり進む過程であるため、進行を急がない
子どもとの信頼関係の構築の進み具合について、関わり手は焦ることがあるかもしれません。
一方で、信頼関係の構築は、前進したり後退したりする所があります。
そのため、子どものペースでゆっくり進めていくこと、つまり、遊びの内容も含めて進行を急がないことが大切です。
著者も子どもたち一人ひとりの遊びのペースを優先して行動するように心がけています。
このように、子どもに応じたペース作りをしていく中で、徐々に子どものことが理解でき、そして、信頼関係が積み重なっていくのだと感じています。
8.必要な制限を与える
最後に、これだけは守ってもらうルール設定もまた大切です。
ルール設定は、子どものことを守るためでもありますし、最低限の社会のルールを守るためのものでもあります。
著者の療育現場でも、暴力・暴言、危険行為の禁止、遊びで使用する物の扱い方や遊びのルール設定などはスタッフ間で共有するようにしています。
大切なことは、子ども(たち)の身を守ること、必要最低限の社会のルールを伝えていくことだと感じています。
以上、【子どもとの信頼関係の構築において大切なこと】アクスラインの8原則を例について見てきました。
アクスラインの8原則はあくまでも遊戯療法とった心理療法で活用されている原則です。
一方で、今回見てきたように、療育現場などにおける、子どもとの信頼関係の構築においても参考にできる点が多くあると感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場において、子どもたちとより良い信頼関係を築いていけるように、自身の取り組みを振り返っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.