〝境界知能″とは、〝知的機能が平均以下であり、かつ「知的障害」に該当しない状態″の人たちのことを指します。
IQ(知能指数)で言うと、70~84のゾーンに当たります(71~85と記載されている文献もあります)。
〝境界知能″の人たちは、日常生活を送る上で様々な困り事が生じる可能性があると示唆されています。
それでは、境界知能の人に見られる学校や社会で起こりえる問題にはどのようなものがあるのでしょうか?
そこで、今回は、境界知能の人に見られる学校・社会での問題について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、発達障害との違いを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「梅永雄二(2024)教師、支援者、親のための境界知能の人の特性と支援がわかる本.中央法規.」です。
学校・社会で必要な2つのスキルについて
まずは、学校・社会の中でどのようなスキルが必要となるのでしょうか?
必要なスキルについて解説した上で、起こりえる問題について見ていきます。
著書には、学校や社会の中で求められるスキルとして、大きく2つのスキルがあると記載されています。
その2つのスキルとは、〝ハードスキル″と〝ソフトスキル″です。
ハードスキル(以下、著書引用)
知識や技術など、勉強・仕事に直結するスキルのこと
ソフトスキル(以下、著書引用)
コミュニケーションや生活習慣など、さまざまな活動のベースとなるようなスキルのこと
著書には、2つのスキルの違いとして、〝ハードスキル″:知識や技術、業務の習熟度、資格、語学力などと、〝ソフトスキル″:コミュニケーション能力、時間管理・金銭管理、リーダーシップ性などがあると記載されています。
以上の内容から、〝ハードスキル″は、勉強や仕事全般において必要になる力、〝ソフトスキル″は、勉強や仕事のある部分・分野において必要になる力だと言えます。
勉強で言えば、基礎学力は〝ハードスキル″が重視されています。
一方で、最近ではグループワークも増えているなど〝ソフトスキル″が求められることも増えています。
仕事に関して言えば、職種や業務内容によって違いがあり、専門職や事務職などにおいては〝ハードスキル″重視の所が多い一方で、営業職やケア労働などにおいては〝ソフトスキル″重視が多いと言えます。
もちろん、勉強・仕事において、〝ハードスキル″と〝ソフトスキル″を完全に分類することは難しく、両方の能力が、領域による偏りがある中で求められる場合が多いと言えます。
【境界知能の人に見られる学校・社会での問題】発達障害との違いを通して考える
〝境界知能″と〝発達障害″の人には、以上の2つのスキルにおいて、問題となる内容に違いがあるとされています(以下、著書引用)。
境界知能の人は得意なことを生かして就職しても、ハードスキル・ソフトスキルのどちらも平均よりもやや低めになる場合が多い。
発達障害(特にASD)の人は得意なことを生かして就職した場合、ハードスキルは身につきやすく、ソフトスキルのほうが課題になりやすい。
著書の内容から、〝境界知能″の人たちは、〝ハードスキル″と〝ソフトスキル″の両方が課題となることが多く、一方で、〝発達障害″の人たちは、〝ソフトスキル″に課題を抱えやすいといった違いがあると記載されています。
そのため、〝発達障害″の人たちにおいては、得意なことを活かして、苦手なことを補うアプローチが有効ですが(〝ハードスキル″を活かす)、〝境界知能″の人たちは、どちらのスキルも苦手としているケースが多いため、全体的に課題のレベルを低くするアプローチが必要だと言えます。
つまり、できることを着実に実行すること、その中で、自信を積み上げていく視点が大切だと言えます。
著者のコメント
著者も境界知能の人との関わりを通して(軽度知的障害も含めて)、発達障害とは異なり、学校や社会で必要となるスキル全般に課題を抱えやすいと感じることがあります。
一方で、発達障害の人たちは、得意なスキルもあるため、強みを活かしていくことが必要だと確かに感じますが、発達障害の人の中には、境界知能や軽度知的障害を抱えている人たちも少なからずいます。
そのため、こうしたケースにおいて、発達障害の特性への理解だけではなく、知的機能といった視点にも目を向けていくことが大切だと思います。
つまり、境界知能の人たちは、様々な課題において、躓きを抱えやすいため、課題のハードルを下げて対応していくことがとても重要だと感じます。
このような知的機能への理解や、本人に合った課題設定の認識が不足してしまうと、本人の失敗経験が増えていくことで二次障害のリスクが高まると言えます。
発達障害への認識が高まる中で、境界知能(軽度知的障害も含めて)への理解も併せて進めていくことが、支援者にとってとても必要なことだと実感しています。
関連記事:「【知的障害児の〝知的機能″の遅れとは何か?】療育経験を通して考える」
以上、【境界知能の人に見られる学校・社会での問題】発達障害との違いを通して考えるについて見てきました。
これまで見てきた内容を踏えて見ても、境界知能の人への理解やサポートは今後ますます必要になっていくのだと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も境界知能の人たちが抱えやすい課題に目を向けていきながら、支援者として対応できるスキルも磨いていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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梅永雄二(2024)教師、支援者、親のための境界知能の人の特性と支援がわかる本.中央法規.