〝境界知能″とは、〝知的機能が平均以下であり、かつ「知的障害」に該当しない状態″の人たちのことを指します。
IQ(知能指数)で言うと、70~84のゾーンに当たります(71~85と記載されている文献もあります)。
〝境界知能″の人たちの困り感は、他の様々な障害と比べても、分かりにくいことが特徴としてあります。
そのため、〝早期発見・早期支援″が必要だと言えます。
それでは、境界知能の人たちへの早期発見・早期支援は、どのような観点から必要なのでしょうか?
そこで、今回は、境界知能の二次障害の予防の重要性について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「梅永雄二(2024)教師、支援者、親のための境界知能の人の特性と支援がわかる本.中央法規.」です。
境界知能の二次障害の予防の重要性について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
境界知能や知的障害、発達障害などのいわば「一次的な障害(一次障害)」への支援が不足することによって、「二次的な障害(二次障害)」が起こることがあるのです。
境界知能の人の支援では、この二次障害を防ぐことが大切です。
著書の内容から、境界知能の人への〝早期発見・早期支援″の必要性は、まさに、〝二次障害を防ぐこと″だと言えます。
境界知能が〝一次障害″であり、この状態への支援が不足することで、〝二次障害″の発症のリスクが高まると言えます。
境界知能によって生じる困り感には様々な内容があります。
特に、学齢期の学習面での躓きが目立ちやすいと言われていますが、周囲から見て大きな困り感とは気づかないこともあります。
一方で、この時期の困り感を気づけずに放置してしまうと、自己肯定感の欠如によって、その後、二次障害が生じるリスクが高まってしまいます。
そのため、できるだけ早期に支援をしていく姿勢が必要だと言えます。
また、著書には、〝二次障害への対策″として、成人期を見通した視点を持つことも重要だとされています。
以下、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
小・中学生の段階では問題が見えにくいかもしれませんが、長期的な見通しを立て、課題を洗い出してみましょう。境界知能の問題を子どもの段階だけで考えるのではなく、大人になってから起こり得るトラブルも含めて検討していくのです。
著書の内容から、小学校・中学校時代においては、問題が見えにくいこともありますが、それでも、長期的な視点を持って(成人期を視野に入れて)課題を検討することが必要だと記載されています。
例えば、学習面においての苦手さは、高校・大学進学や就労に大きく影響していきます。
そのため、着実に身になる学習を積み上げていくこと、高いハードルを設けないこと、本人にあった学び方を工夫していくこと、学びの意欲を保ち続けることなどが学齢期からの支援として必要だと言えます。
こうした支援の継続が〝二次障害の予防″に繋がっていくと言えます。
著者の経験談
著者はこれまで境界知能の子ども、あるいは、その可能性が高いと感じた子どもと関わった経験があります。
中でも、早期からの対応が遅れてしまったことで、二次障害が発症したケースもありました。
このケースは、明らかに境界知能の状態像であったにもかかわらず(軽度知的障害の可能性もあり)、本人に合った対応や環境調整が非常に遅れてしまったことで、本人の自己肯定感が徐々に低下してしまい、後にうつ病が発症してしまうことになりました。
本人はできる限りの努力をしたにもかかわらず、学習が思うようにうまく進まない、周囲に合わせることに精一杯で、自分で目標を立てて行動することで少しずつ身に付く能力、そして、様々な事柄を選択することで身に付く自己決定力などが鍛えられることが少なく、結果、無力感に襲われる状況に追い込まれてしまったのだと思います。
このケースから、著者はまだまだ社会的な支援を受けることが難しい境界知能の人たちへの早期発見・早期支援もまた他の障害と同様に必要なことだと強く感じるようになりました。
そして、早期発見・早期支援を行っていくことで、二次障害を防いでいくことは可能だと考えています。
以上、【境界知能の二次障害の予防の重要性】発達障害児・者支援の経験を通して考えるについて見てきました。
境界知能は他の障害と比べても、状態像の理解がわかりにくいことが特徴としてあると言えます。
一方で、状態像の理解を怠ると、後に症状が悪化するリスクが高いことも事実としてあります。
そのため、できるだけ早期から支援を受けられる環境を整えておくことが必要だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も境界知能の人たちへの早期発見・早期支援の視点に加えて、支援を継続していくことで二次障害を防いでいくことも併せて大切な視点として持ち続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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梅永雄二(2024)教師、支援者、親のための境界知能の人の特性と支援がわかる本.中央法規.