発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
感覚の問題を考えるにあたってとても大切なキーワードとして〝嗅覚過敏″〝嗅覚の低反応″があります。
〝嗅覚過敏″や〝嗅覚の低反応″があると、生活の様々な場面で困り感が生じることがあります。
それでは、嗅覚過敏及び、嗅覚の低反応があると、どのような困り感が生じると考えらえているのでしょうか?
そこで、今回は、嗅覚過敏・嗅覚の低反応の困り感について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
嗅覚について
〝嗅覚″は、私たちの〝五感″の一つです。
私たちが、食べ物を食べるときなど、外界の物を認識する際に〝嗅覚″はとても重要な働きをしていると考えられています。
例えば、目の前に見たことのない食べ物があり、その食べ物から変な臭いがしたとします。
すると、私たちは、この食べ物は腐っているのでは?食べてはいけないものなのでは?といった認識をすることができます。
つまり、食べるといった行為には、〝味覚″も重要ですが、それ以前に〝嗅覚″の働きも重要だと言えます。
それでは、〝嗅覚過敏″〝嗅覚の低反応″があると、どのような困り感が生じるのでしょうか?
嗅覚過敏の困り感について
著書には、〝嗅覚過敏″がある場合の困り感がいくつか記載されています(以下、著書引用)。
- 服(洗剤のにおい、生乾き)のにおいが気になり人に近づけない
- 体臭(ミドル脂臭、加齢臭等)が気になってしまう
- ハーブ(チョコミント等)の特定のにおいに過剰に反応する
著者は療育現場で発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わっています。
こうした子どもの中には、特定の〝匂い″に過剰に反応するケースも少なからず見られます(もちろん、大人にも見られる場合もあります)。
先に見た、服のにおいや体臭、ハーブなどの特定のにおいも含め、香水、車内のにおい、スライムのにおい、特定の食べ物のにおい、などに強く反応する子どももいます。
中には、苦手なにおいをかぐと吐いてしまうケースもあります。
言葉で苦手なにおいを意思表示できればまだしも、言葉による意思表示が難しいと表情や不快なにおいを避ける行動などから読み取っていく必要があります。
また、苦手なにおいには直接対応できるもの(洗剤を変えるなど)と、直接対応が難しいものもあります(他者の体臭など)。
そのため、物理的に距離を取る、マスクなどで予防するなど対応方法が少ないことも現状の課題としてあるように思います。
嗅覚の低反応の困り感について
〝嗅覚過敏″がある一方で、〝嗅覚″が非常に鈍感(=低反応)なケースもあります。
〝嗅覚の低反応″があると、次のような困り感が生じる場合があります(以下、著書引用)。
味覚・嗅覚自体が低反応の場合は、腐っている食べ物に気づかずに食べてしまうなど食事関連の困り感につながりやすいです。
一方、本人がにおいや味の変化に気つかないことも多いため、本人の困り感としては表出しないケースも多いといわれています。
〝嗅覚の低反応″があると、〝味覚″との関連性から、食事関連での困り感に繋がることが多くあると記載されています。
つまり、先に見たように、私たちが食べ物を食べる際に、まずはにおいを嗅いでその食べ物が腐っていないかなど安全を確認してから食べています。
一方で、〝嗅覚の低反応″があると、こうした識別(安全かどうかなど)が難しくなると言えます。
また、においの変化にそもそも気づきにくいことから、困り感として上がってこない場合もあるとしています。
以上、【嗅覚過敏・嗅覚の低反応の困り感について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
聴覚や触覚の問題等と比べても、嗅覚の問題はなかなか話題に上がってくることが少ないのが現状かと思います。
一方で、嗅覚による困り感を抱えている場合、生活の中での困り感が様々な所で生じることが予想されます。
そのため、他の感覚の問題と同様に、嗅覚の問題もまた見落とせない視点だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、様々な感覚の問題への理解を深めていきながら、併せて対応策についても学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「発達障害の感覚調整障害について【4つのタイプから考える】」
前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.