著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしてきています。
その中で、〝叱る″ことは多くの場合、子どもの行動を変えること、成長に繋げていく上で、ほとんど効果がないと実感しています。
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一方で、叱ることによって行動が変わることもまた事実として少なからずあるように思います。
それでは、叱ることによる効果には一体どのようなものがあると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、叱ることの効果について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「村中直人(2024)「叱れば人は育つ」は幻想.PHP新書.」です。
叱ることの効果について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「叱る」ことの効果。それは危機的な状況への介入効果です。もう少し具体的に言うと、目の前で起きている絶対にやめてほしいことや変えてほしいことに対して、叱ること以上に効果的で手軽な方法はないでしょう。
以上の内容を踏まえると、〝叱る″ことにも効果があると言えます。
しかし、その効果も、非常に限定的であると言えます。
例えば、命に繋がる危険行為(車に向かって走り出す、刃物を振り回すなど)、〝危機的な状況への介入効果″はあると考えられています。
一方で、こうした〝危機的な状況への介入効果″には限界もあります。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
叱ることの効果は「目の前の行動を変えられる」ことだけなのです。その後の行動を変えさせるような学びの効果はきわめて薄いのです。
つまり、〝危機的な状況への介入効果″を狙った〝叱る″行為は、目の前の行動(現在進行形)を変えることのみに効果があると言えます。
そのため、今後の望ましい行動(姿)を期待して〝叱る″行為を繰り返しても、次の学習には繋がらなく、繰り返される叱責はネガティブ感情を増加させることに繋がっていきます。
ここでのポイントは、現在進行中の危険行為を一度止めることにフォーカスする(そのために〝叱る″行為を活用する)ことであり、危険行為後に、叱り続ける必要はないということです。
あくまでも、自他の命を守るために、危険な行為が見られた瞬間にのみ〝叱る″ことには介入効果が期待できます。
注意点は、〝叱る″ことで人は物事を学ぶことができるといった〝学習効果″を期待してはいけないということです(介入効果と混同されやすいと著書には記載があります)。
著者の経験談
著者も療育現場において、子どもたちが危険行為をすることが多くはありませんが、それでもこれまで何度か経験してきています。
こうした行為に対して、著者は言葉で〝叱る″こともありますが、まずは体で止めることが多かったように思います。
一方で、止められた方は、止められた理由がしっかり分からないと同じことを繰り返すケースが多いと感じています。
また、理由が分っていても、自分の感情や行動をうまくコントロールできずにやむなくしてしまうこともあります。
こうした事態を避けるためにも、著者は可能な限り、危険行為を未然に予測して、同じ状況を生み出さないことを心掛けています。
また、事が起こりそうな前に、事前に子どもに困ったら○○しよう!大人に相談しよう、などと解決策を提案することも大切にしています。
こうした関わり方の工夫を継続することで、〝る″状況を減らしていくことができ、子どもとの信頼関係の構築に繋がり、そして、より良い行動を教えることにも繋がっていくと感じています。
危険行為も含めて、子どもの行動を叱責したくなる場面、責せざるを得ない場合はあるかと思います。
一方で、今回の参考書を読んで改めて、長いスパンで子どもの成長を考えた場合、〝叱る″ことを通して、子どもは学ぶことがほとんどできないといったことを理解していくことが大切だと考えさせられました。
以上、【叱ることの効果について】発達障害児支援の現場を通して考えるについて見てきました。
私たちは、他者の行動を見て、注意したくなること、責したくなることがあります。
仮に、叱ることを通して、相手の行動がより良い行動へと繋がっていく場合があるとすれば、相手のことを本気で思って言っているということ、そして、その思いが相手にしっかりと届いているかどうかということに尽きるかと思います。
つまり、相手との信頼関係がベースにあると言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちがより良い発達を遂げていけるように、自分自身の関わり方を見つめ直していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
村中直人(2024)「叱れば人は育つ」は幻想.PHP新書.