発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
感覚の問題を考えるにあたってとても大切な感覚として〝前庭感覚″があります。
それでは、前庭感覚とは一体どのような感覚なのでしょうか?
そこで、今回は、前庭感覚について、体幹機能との連動も含めて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
前庭感覚とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
バランスを取るための感覚(平衡感覚、バランス感覚)
耳の奥のある三半規管で感じ取っている
私たちが、転ばずに歩くことができる、姿勢を立て直すことができる、座った状態を保持できるのも〝前庭感覚″によるものです。
つまり、著書にあるように、〝前庭感覚″とは、バランスを取るための感覚だと言えます。
三半規管には、リンパ液が流れており、このリンパ液が流れることで傾きを感知することができるようになっています。
このように、バランス感覚を司るためにとても大切な感覚が〝前庭感覚″だと言われています。
体幹機能との連動について
著書によれば〝前庭感覚″と体幹機能には密接な関連があると言われています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
前庭感覚で揺れを感じると、全身のバランスを取る筋肉が作動する=骨格筋が緊張してバランスを保つ(前庭脊髄反射)
私たちの姿勢・動きには、〝静的なもの″と〝動的なもの″とがあります。
〝静的なもの″とは、例えば、椅子に座って作業をするなどがあります。
〝動的なもの″とは、例えば、走ったり、踊ったりといった全身運動があります。
これらの両方の姿勢・動きにおいて、どちらも、〝前庭感覚″によって揺れを感知して、バランスを保持しようとします。
著書によれば、前者が〝静的バランス″、後者を〝動的バランス″と呼んでいます。
そして、バランスを取るために必要となるのが、〝前庭感覚″によって揺れを感知したものを体感機能が支えるという連動によるものです。
体感機能には、骨格筋が緊張してバランスを保つ(前庭脊髄反射)働きがあります。
このように、私たちがバランスを取りながら歩いたり・走ったり・座り続けることができるのも、〝前庭感覚″と体幹機能がうまく連動しているためです。
著者のコメント
著者は発達障害など発達に躓きのある子どもたちと多く関わってきています。
子どもたちの中には、姿勢が崩れやすい、椅子から倒れる、公園の遊具遊びが苦手、よく転ぶなどの行動が少なからず見られます。
こうした行動の背景には、原始感覚の一つである〝前庭感覚″がうまく育っていないことが考えられます。
原始感覚はなかなか表面上の行動を見ても理解が難しいことがあります。
著者は〝感覚統合″の書籍を読んで初めて〝前庭感覚″といった言葉を知りましたが、療育現場でよく見る子どもたちの行動特徴を理解していくためにも、〝前庭感覚″の理解はとても大切だと感じています。
大人になるにつれて、うまく感覚機能が育ち・統合している方であれば、こうした感覚はほぼ無自覚的に働かせることができます。
一方で、発達に躓きがあると、感覚機能が未発達であったり、うまく統合されていない場合がよくあります。
そのため、発達の躓きを感覚の視点から理解することはとても大切なことだと実感しています。
以上、【前庭感覚について】体幹機能との連動を通して考えるについて見てきました。
様々な感覚が連動していくことで、私たちの発達はより高次化していくと言われています。
そのため、発達の根底を支えている前庭感覚を含めた原始感覚について理解を深めていくことは、より良い発達理解と発達支援に繋がっていくのだと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちを深く理解していけるように、感覚の視点も大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「感覚統合で大切な前庭感覚(平衡感覚)について【療育経験を通して考える】」
前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.