〝共同注意(joint attention)″とは、ある対象に対する注意を他者と共有することを指します。
〝共同注意″の発達は、後のコミュニケーションの育ちにおいて非常に重要な意味を持つものだと考えられています。
自閉症児は、〝共同注意″の発達が定型発達児とは異なると言われています。
関連記事:「【自閉症児の共同注意の特徴】定型発達児との違いを通して考える」
そのため、子どもの〝共同注意″行動を理解し促していく関わり方が必要になってきます。
それでは、子どもの共同注意行動を促していくためには、どのような方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、共同注意行動の促し方について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、スクリプトをキーワードに理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.」です。
共同注意行動の促し方:スクリプトをキーワードに考える
〝スクリプト″とは、〝ある出来事に対するまとまった知識のこと″を言います。
例えば、鬼ごっこ遊び(遊びのフォーマット)にしても、朝の準備(生活のフォーマット)にしても、私たちは、ある程度の決まった型(フォーマット)を持っています。
その際に、活用しているのが〝スクリプト″だと言えます。
ここでは、〝生活のフォーマット(スクリプト)″をテーマに見ていきます。
遊びのフォーマットの獲得と同様に、生活のフォーマットもまた、〝共同注意″の発達過程における〝シンボル共有的共同注意″、つまり、5つ目の種類(最後)に見られる段階だと考えられています。
関連記事:「【共同注意の発達過程について】5つの種類を通して考える」
〝シンボル共有的共同注意″の段階では、活動に子どもが参加する中で、イメージ(表象)を介して、活動の目標を理解し、大人の真似をすることが重要な目的になります。
関連記事:「【共同注意行動の促し方③】シンボル共有的共同注意をキーワードに考える」
また、遊びだけではなく、様々な生活場面においても〝シンボル共有的共同注意″を促すことは大切だと考えられています。
それでは、どのような意味において、生活のフォーマットといった〝シンボル共有的共同注意″の関わりを促すことが必要なのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
具体的な対象への共同注意は、「イメージ」「ルール」「スクリプト」といった表象の共有へと高次化されていきます。子どもは、様々なスクリプトを共有しながら生活場面に応じたことばを理解し、ことばの使い方を学んでいきます。
著者の内容から、子どもは生活のフィーマットに参加していく中で、生活に必要な言葉を理解し、言葉の使い方を学んでいくと考えられています。
つまり、様々なスクリプト(生活のフォーマット)を通して、子どもは自身の体験を言語化させていく力が育まれていくのだと言えます。
そのため、スクリプト(生活のフォーマット)の共有を通して、生活に関する理解を促していく関わりが必要だと言えます。
それでは、次に、スクリプト(生活のフォーマット)を通して、子どもの言葉の理解が進んだと感じる著者の療育経験について見ていきます。
著者の経験談
事例:小学校2年生の自閉症のAちゃん
Aちゃんは、著者が勤める放課後等デイサービスに1年生の頃から通所し始めた子どもです。
当時のAちゃんは、遊び始めると自分の興味の世界に没頭する傾向が強く、切り替えが難しい場面が多くありました。
例えば、遊びの終わりがきても、なかなかやめることが難しいといった状態です。
一方で、Aちゃんに関わるスタッフは、おやつの時間や帰りの会など、活動のフォーマットに関する共有を日々実施していきました。
例えば、○○時になったらおやつタイム、○○時になったら帰りの会など、少し前に声をかけていきました。
そして、おやつタイムには、まずはお片付け、手洗い・・・といったように一連の流れを伝えていきました。
こうした日々の繰り返しが定着しはじめたのか、Aちゃんは、おやつタイムになると、自ら手を洗い、おやつと食器が運ばれてくるのを嬉しそうに待ち、食べ終えると食器を自分で片付けるようになりました。
また、帰りの会になると、帰り支度を自らはじめて、帰りの挨拶をするようになりました。
Aちゃんの中では、おやつタイムや帰りの会には、まずは○○をして、次に○○をする、といった一連の流れ、つまり、スクリプト(生活のフォーマット)を獲得していったと言えます。
スクリプトの獲得もあってか、まだ時間での切り替えは難しいAちゃんですが、次に○○をする、その次に○○をする、といったスクリプトを活用しての切り替えはとてもスムーズに進むようになったと思います。
以上、【共同注意行動の促し方④】スクリプトをキーワードに考えるについて見てきました。
私たちは、様々な経験・記憶を断片的に保持しているわけではなく、ある程度まとまった知識体系として保持することができます。
その際に、活用しているのがスクリプトであり、スクリプトは後々のナラティブの発達に繋がっていくと考えられています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもとの間で様々な経験を共有していきながら、スクリプトの発達を促していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【〝スクリプト″から見たことばの発達】療育経験を通して考える」
関連記事:「【〝スクリプト″から見たコミュニケーション支援について】療育経験を通して考える」
長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.