〝共同注意(joint attention)″とは、ある対象に対する注意を他者と共有することを指します。
〝共同注意″の発達は、後のコミュニケーションの育ちにおいて非常に重要な意味を持つものだと考えられています。
それでは、共同注意には、どのような発達過程があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、共同注意の発達過程について、共同注意の5つの種類を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「大藪泰(2004)共同注意 新生児から2歳6ヶ月までの発達過程.川島書店.」です。
共同注意の発達過程:5つの種類を通して考える
著書には、〝共同注意″の5つの種類が記載されています(以下、著書引用)。
1.前共同注意
2.対面的共同注意
3.支持的共同注意
4.意図共有的共同注意
5.シンボル共有的共同注意
著書によれば、1~5までの共同注意の発達過程は、先の共同注意が消失して、次の共同注意が出現するといったものではないと考えられています。
つまり、先の共同注意を活用していく中で、次の共同注意が見られるといった重層的に構造を持つものだとされています。
それでは、次に、1~5について具体的に見ていきます。
1.前共同注意
以下、著書を引用しながら見ていきます。
新生児の身体と大人の身体との間には、共鳴し通じあう通路が設けられているかのようである。「情動の通底的現象」として知られる出来事である。
例えば、新生児が泣いたり、微笑んだりするのを見て、大人は子どもの思いを読み取り(関主観的に)働きかけることができます。
その逆もあり、新生児が表情の変化や声を上げるなどして発信する信号に大人は答えようともします。
このような、新生児と大人の情動(身体)と情動(身体)とが共鳴し合う構造が〝情動の通底的現象″とも表現されており、共同注意の一種である原初的な関わり、つまり、〝前共同注意″だと考えられています。
2.対面的共同注意
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「対面的共同注意」は生後2か月から半年の間に最も顕著に出現する。この時期には、乳児の視線が他者の顔、とりわけ目をしっかり捉え、さらに社会的微笑の出現が明確になる。
〝対面的共同注意″は、生後2ヶ月から半年の間に出現するものであり、特徴として、乳児が大人の目をしっかりと捉えることができるようになる時期だと考えられています。
つまり、大人から見て、乳児のまなざしをしっかりと感じ取ることができる、視線が通じ合うことで、乳児の主体を感じ取ることがより可能になる時期だと言えます。
そして、この時期には、まだ、「子ども‐対象物‐大人」(三項関係)のうち、対象物は介在せず、「子ども‐大人」の二者関係(二項関係)に留まっている状態です。
一方で、乳児は対象物(モノ)との関係も発展させていくなど、着実に、三項関係への基盤が整ってきている段階にあります。
3.支持的共同注意
以下、著書を引用しながら見ていきます。
この共同注意は、乳児と他者のいずれかが相手の視線を追跡して同じ方向を見たり、そこに存在する対象物を注目したりするときに生じる。
1つは、乳児の視線を相手が追跡する場合であり、もう1つは他者の視線を乳児が追跡する場合である。
〝支持的共同注意″とは、生後6ヶ月から見られると言われています。
そして、特徴として、乳児または大人(他者)が、片方の視線を追跡することが可能となる時期だと考えられています。
一方で、乳児が大人(他者)の視線の先にある対象物を見ていても、他者の存在をモニターしながら、対象物を見ているかどうかは不明だと考えられています。
三項関係の成立による〝共同注意″とは、例えば、子どもが大人の存在を意識しながら(モニターしながら)、両者が同じ対象物に視線を向けることを意味しています。
しかし、〝支持的共同注意″の段階では、子どもが他者(大人)と同じ対象物に視線を向けながら、同時に、他者(大人)の存在も認識しているのかが明確にはわからない状態だと言えます。
4.意図共有的共同注意
以下、著書を引用しながら見ていきます。
生後9か月~12か月頃より、乳児の共同注意には新たな質的変化が生じる。乳児は、自分、大人、そしてこの両者が注意を共有する第3の対象物からなる3項関係をより緊密なものにし、参照的な相互作用に関わりだす。
〝意図共有的共同注意″とは、生後9ヶ月~12ヶ月頃から出現する、三項関係の成立による共同注意行動だと言えます。
つまり、子どもが対象物に視線を送ると同時に、同じく対象物に視線を送っている他者(大人)の存在もしっかりと認識している状態だと言えます。
例えば、子どもが指さしした対象物(犬)を大人が見ると、子どもは大人にも視線を送りながら、大人が対象物(犬)を見たときの反応を確認するといった状況が例としてあげられます。
こうした行動が取れるようになって、子どもは、対象物の存在の理解、つまり、他者(大人)が対象物に対してどのような知識や感情を抱いているのかといった理解に繋がっていきます。
5.シンボル共有的共同注意
以下、著書を引用しながら見ていきます。
生後15か月から18か月になると、多くの子どもが言語的シンボルを使用しはじめる。それは新たな共同注意領域の登場を意味する。
子ども-対象物-他者という共同注意構造は、子ども-対象物/シンボル-他者という共同注意構造に変形されるのである。
〝シンボル共有的共同注意″とは、生後15ヶ月~18ヶ月頃から出現する、三項関係のうち(子ども-対象物/シンボル-他者)、対象物が現在目の前に存在していないイメージ(言葉・シンボル)についても共有可能な状態を意味していると言えます。
例えば、子どもが冷蔵庫を指差して 〝りんご″と言うと、大人は〝りんご食べたいの?″といった目の前には見えていない対象物について、言葉といったシンボルを介して共同注意を成立させることができます。
つまり、目に見える具体的なモノでなくても、言葉といったシンボルを介して、そのイメージ(表象)対象を他者と共同注意対象にしていくことができます。
以上、【共同注意の発達過程について】5つの種類を通して考えるについて見てきました。
共同注意の発達過程を詳細に見ていくことは、自閉症児など、共同注意の発達過程に特徴的な発達を見せる子どもの理解と支援において、とても重要な意味があると言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちの共同注意の発達を理解し促していく方法を学んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【共同注意とは何か?】三項関係・9カ月革命・社会的参照をキーワードに考える」
大藪泰(2004)共同注意 新生児から2歳6ヶ月までの発達過程.川島書店.