〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを指します。
一般的には、愛着関係は養育者が中心となり、その後の対人関係の中で広がり発展していくと考えられています。
その対人関係の中には、〝先生″の存在もあります。
それでは、多くの子どもが人生の中で出会う先生との愛着関係には、どのような特徴があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、先生と子どもの愛着関係の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝個別的敏感性″と〝集団的敏感性″を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.」です。
〝個別的敏感性″について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
子どもの集団が小さく、数人の子どもと保育者の先生が一緒に過ごしているような場合、先生が個別の子どもに対して示す敏感性の高さが、子どもの安定したアタッチメント形成に関わることが分かっています。この敏感性は個別的敏感性と呼ばれます。
著書の内容から、〝個別的敏感性″とは、集団規模が小さい場合において、先生が子どもに個別で関わる際の敏感性のことを指しています。
保育や教育現場では、先生一人に対して、集団規模に違いがあります。
集団規模が小さい場合だと、一人の先生は一人ひとりの子どもに対して、しっかりと向き合うことがある程度は可能だと思います。
もちろん、集団の構成メンバーにもよりますが、今回は、個別対応のニーズが少ない集団を想定して話を進めていきます。
著者はこれまで未就学児から小学生を対象に、様々な子どもたちへの療育をしてきています。
その中で、集団規模が小さいグループを担当した際に(あるいはこうした状態と似た状況において)、ある程度は子どもたち一人ひとりの発信に対して、把握でき応答できることが多いといった印象があります。
そのため、個別対応ほどではないにしても、それに近い対応が可能であると思っています(もちろん、先ほど述べた通り個別ニーズの低い集団の場合)。
つまり、著書にあるように、個別の対応を丁寧に実施するといった、個別の〝敏感性″の高さが子どもとの関係構築の上で大切だと感じています。
〝集団的敏感性″について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
子どもの集団サイズが大きく、教室などの比較的広い場所で、一人の先生が何人もの子どもに関わる保育もあります。(中略)クラス全体へのまなざしを持ちつつ、集団の中にいる子どもたちが相互にやりとりできるように支える姿勢は、集団的敏感性と呼ばれています。
著書の内容から、〝集団的敏感性″とは、集団規模が大きい場合において、先生が子どもたち集団に見せる敏感性(声掛けや眼差しなどの関わり方)のことを指しています。
ここで大切なことは、子どもたちは何も個別の対応(〝個別的敏感性″)からのみ安心感を得ているわけではないということです。
一人の先生が複数の子どもたち(集団)に見せる関わり方を、一人ひとりの子どもたちはよく見ており、先生が集団に向ける眼差しや声がけなどから子どもたちは安心感を得ているということです。
そして、こうした〝集団的敏感性″の高さもまた、安定したアタッチメント関係を築いていくためにはとても重要だと言えます。
著者はこれまでの療育を振り返って見たときに、個別対応だけでなく、集団への対応が求められることも多く経験してきました(むしろこのような状況の方が多かったと思います)。
その中で感じたことは、子どもたち一人ひとりは、著者が集団の中で見せる姿勢をとてもよく観察しているといった実感です。
著者が集団に対して、温かい眼差しや声掛けなどの対応をしていくことで、例えその対応が個別に向けられたものではないにしても、子どもたちは〝この先生は自分たちのことをしっかりと理解してくれている、そして、守ってくれている″ということを認識するようになるだと思います。
実際に著者が勤めるスタッフ集団の雰囲気が良いものだと、子どもたちの集団はとても安心して過ごしているといった実感があります。
逆に、著者も含め、スタッフ集団がギスギスした状態であれば、子どもたちは意識的・無意識的に、安心感を得ることが難しいといった印象を受けます(実際に、このような状態は過去にあったように思います)。
一人の先生が集団を見る(大きい集団規模)ことはよくあるかと思います。
それでも、子どもたちは先生からの愛情を強く受けているといったことが言えるのだと思います。
以上、【先生と子どもの愛着関係の特徴について】〝個別的敏感性″と〝集団的敏感性″を通して考えるについて見てきました。
〝個別的敏感性″は、これまでの愛着研究を踏まえても、その関わりの内容や重要性をイメージしやすいかと思います。
一方で、〝集団的敏感性″もまた、子どもたちの情緒が安定したものになるためにも、とても大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自分自身の集団への関わり方が子どもたちの安心感に繋がるものであるかを振り返っていきながら、さらに質の高い療育を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「保育者や先生が子どもたちに与える役割【個別的敏感性と集団的敏感性】」
篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.