〝二次障害″への予防と対応は、発達障害児支援の現場ではとても重要です。
発達障害には、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)などがあります。
これらの発達障害は、単独で生起する場合もあれば重複しているケースも多いと言われています。
それでは、発達障害の特性が重複した場合、二次障害のリスクは高まるのでしょうか?
そこで、今回は、二次障害が悪化するケースとして、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、発達障害の重複例を通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2023)子どもの発達障害と二次障害の予防のコツがわかる本.ソシム.」です。
二次障害が悪化するケース:発達障害の重複例
著書には、発達障害が単発のケースよりも重複したケース(ASD+ADHDなど)の方が二次障害へのリスクが高まると記載されています。
そして、著書には重複例として以下のようなリスクがあるとしています(以下、著書引用)。
- こだわり行動があるため、正確にやりたいのに、不注意症状でミスを繰り返してしまい、パニックになる
- 触覚過敏で対人不安があるのに、衝動性が強く失礼なことを相手に言ってしまう
- 漢字を正確に書くことにこだわってしまうのに、書字障害があり思った通りの字が書けない
以上の著書の引用を整理すると、発達障害の特性の重複について次の特徴が見えてきます(引用ケースの場合を例に)。
・ASD(こだわり)+ADHD(不注意)→症状が悪化
・ASD(感覚過敏)+ADHD(衝動性)→症状が悪化
・ASD(こだわり)+SLD(書字障害)→症状が悪化
つまり、以上の例からも分かる通り、発達障害が重複したケースは二次障害の症状を強めてしまう可能性があるということです。
著者のコメント
著者の療育現場には、発達障害など発達に躓きのある子どもたちが通所してきています。
著書の実感としても、発達障害は単独で生起する場合よりも重複している場合の方が〝二次障害″へのリスクが高まると感じています。
中には、特定の発達障害の診断を受けているものの、その背後に別の発達特性が隠れていると思われるケースもあります。
このようなケースにおいて、〝二次障害″のリスクはとても高まると思います。
例えば、ADHDの診断を受けている背景に、ASDの発達特性が潜んでいる場合です。
そして、もともと〝二次障害″の症状があり、年齢を重ねるごとに症状が悪化していったケースを例に以下見ていきます。
こうした特徴のある子を仮にA君とします。
A君は、ADHD特性から自分の思いが叶わないと衝動的行動に走り、それがエスカレートすると癇癪やパニックを起こすことがよくありました。
そんなA君でしたが成長するに伴い、衝動的行動は減り自分の思いが叶わなくても、イライラや癇癪を起こすことは減っていきました。
A君への対応方法として、落ち着ける環境にA君を移しクールダウンをはかりました。
その後、A君の気持ちを聞き振り返りを行いました。
また、事前にA君が安心できる環境調整や予定の伝達もしていきました。
このような対応方法が功を奏したのか、また、歳を重ねること、つまり、脳が成熟したことが要因となり、衝動的行動が減っていきました。
一方で、支援効果があまり見られなかったものとして、自分の気持ちを振り返る力の育ちです。
通常のADHD特性のみが見られる場合であれば、自分の気持ちを振り返ることはある程度はできると思います。
一方で、A君には、この自分の気持ちを振り返ることの難しさがありました。
自分の気持ちを振り返ること、他者の気持ちを読み取る力の苦手さはASDの人たちによく見られるものです。
つまり、A君には、もともとのADHD特性に加えて、ASD特性も同時にあったこと(背後に隠れていたこと)で、〝二次障害″の症状が悪化した可能性があると著者は考えています。
著者はこのケースを通して、診断名のみに捉われずに、他の発達特性も困り感の要因となっていないかどうかも検討していくことが重要だと考えさせられました。
以上、【二次障害が悪化するケース】発達障害の重複例を通して考えるについて見てきました。
発達障害の特性に対しては、配慮の観点がとても大切です。
つまり、頑張って克服させることや年齢が経てば改善するとは安易に考えずに、本人に合った環境を調整すること、そして、本人の自信ややる気、重要な他者への信頼が損なわれないように支援していくことが大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で二次障害への予防と対応を考えていく中で、症状の悪化に繋がる重複例についても実践からの学びを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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