「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
心の理論も一次の心の理論から二次の心の理論へと段階を踏んで発達していきます。
そして、二次の心の理論の段階になると、道徳的な判断もより高次化していくと考えられています。
道徳的判断とは、善悪に関する個人の価値判断などとも言われますが、一般的に私たちは、善悪の判断を社会のルールやこれまでの経験から培われる個人の価値観に基づいて行っています。
それでは、二次の心の理論に見られる道徳的な判断は、その前段階の一次の心の理論の段階とはどのような違いがあるのでしょうか?
そこで、今回は、二次の心の理論の発達について、道徳的な判断を例に考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
二次の心の理論の発達について:道徳的な判断を例に考える
著書には、道徳的判断の状態を調べるために以下に実験の例が記載されています。
その内容を要約すると、幼児と児童と大学生を対象に、男の子が女の子の画用紙に落書きをしてしまい、女の子を悲しませてしまう話を聞いてもらうというものです。
その際に、男の子がその画用紙が女の子のものであることを〝知っている″〝知らない″といった状況を作り出します。
そして、どちらが〝悪いことをしたのか?″という質問をします。
私たち大人は一般的には、〝知っている″方を選びます。
興味深い結果内容が以下です(著書を引用)。
大人と同程度の選択率になったのは児童期の9歳頃からであった。このことから、他者の心の状態がわかるようになる年齢になったからといって、あらゆる道徳的判断が大人に近づくわけではないということが示唆される。
著書の内容から、個人が持つ善悪の価値観に基づいて判断を行う〝道徳的判断″は9歳頃からであると考えられています。
つまり、それ以前の〝一次の心の理論″の獲得期(4~5歳頃)ではまだ道徳的判断(大人に近い)は難しく、〝二次の心の理論″の獲得期(6~9歳頃)になって可能になってくるということです。
実験結果で見られる、〝一次の心の理論″の獲得期である4~5歳児においては、他者の心の状態の理解はできるようになるも、善悪の判断はまだまだ未発達だという結果が出ています。
つまり、画用紙が女の子のものであることを〝知っている″状態で落書きする方が〝知らない″状態で落書するよりも悪いということが多くの人が選ぶ道徳的判断だと考えらますが、こうした判断がうまくできない段階(うまく説明できない段階)だということです。
もちろん、こうした判断は言語能力など論理的思考の発達も影響してくるかと思います。
道徳的判断ができるようになる前段階にも、道徳的判断に基づいて行動しているように感じられることが著者の療育現場の子どもたちには見られます。
しかし、自分の行動の判断基準を説明するとなると一気にハードルが高くなることも事実としてあると思います。
〝なんとなく良いこと″〝なんとなく悪いこと″といった感覚的な判断はできても、〝○○の理由で良いこと″〝○○の理由で悪いこと″などといった善悪の判断基準を説明するには、言語能力の発達や論理的思考も必要になります。
例えば、〝知っている″状態で落書きすることは、相手が悲しむことが事前にわかっている行いであるため、相手を傷つける悪い行いという説明ができるなどがあります。
このように、〝二次の心の理論″を獲得することで、様々な人の心情を深く理解でき、説明できるようになることが〝道徳的判断″の発達にも影響しているといったことが考えられます。
以上、【二次の心の理論の発達について】道徳的な判断を例に考えるについて見てきました。
道徳的な判断は、社会で生きていく上で必要な力です。
そして、道徳的な判断の発達の背景には、心の理論の育ちが大切な役割を果たしています。
そのため、心の理論の育ちを応援していくことが、一人ひとりの善悪の判断基準を獲得する力を少しずつ育んでいくことに繋がっていくと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論についての学びを深めていきながら、心の理論の育ちが他の力にどのような影響を及ぼしていくのかを療育現場での実践と併せて、知識の収集も行いながら考えていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【一次の心の理論、二次の心の理論とは何か】療育経験を通して考える」
子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.