〝ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。
ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。
中でも、ワーキングメモリは不安症(群)と関連性があることが研究により分かってきています。
関連記事:「ワーキングメモリと不安症(群)の関係について」
それでは、不安症(群)の人に対してどのようなワーキングメモリの支援方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、ワーキングメモリを支援する方法について、不安症(群)を例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。
ワーキングメモリを支援する方法:不安症(群)を例に
著書には、ワーキングメモリを支援する方法として、不安症(群)の子どもにも適応できる〝一般的な方略“と不安症(群)の子どもに〝特化した方略”の2つが記載されています。
一般的な方略
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする
ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を分割する
ワーキングメモリの処理を支援するために、学習ツールと実演を用いる
ワーキングメモリを補強するために、情報を不定期にくり返す
ワーキングメモリの負荷を減らすために、活動を短くする
ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する
著書の内容では、不安症(群)の子どもへの〝一般的な方略″として6つの方法が記載されています。
ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする
周囲で気になるものはできるだけ取り除くことが必要です。
不安症の子どもは過度な心配からワーキングメモリの機能に支障がでるため、ワーキングメモリのキャパシティを超えないように極力刺激となるものは避ける環境調整が必要です。
ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を分割する
情報を分割して伝えることが重要です。
不安症の子どもは、一度に複数の情報を提示されると混乱します。そのため、与える情報は一度に少しずつ伝達する配慮が必要です。
ワーキングメモリの処理を支援するために、学習ツールと実演を用いる
不安症の子どもには実演から学習を促す方法が有効です。
それは、見たり聞いたりのみの学習では注意の維持が難しいからです。実演を取り入れることで注意喚起と定着を促すことに役立ちます。
ワーキングメモリを補強するために、情報を不定期にくり返す
不安症の子どもにとって、記憶の定着を促すためには、記憶したい情報をリハーサルすることが重要です。
不安があることでワーキングメモリがうまく機能しない不安症の子どもにとっては、定期的に重要な情報をリハーサルする機会を設けることが必要です。
ワーキングメモリの負荷を減らすために、活動を短くする
ワーキングメモリの機能をうまく働かせるために、不安症の子どもには適度な休憩が必要になります。
不安があることで、活動に集中して取り組める時間が短くなります。
そのため、活動時間を短くして適度な休憩を取ることでワーキングメモリの機能を効果的に働かせることができます。
ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する
不安症の子どもたちのワーキングメモリの特徴には、〝言語性ワーキングメモリ″の脆弱さがあります。
そのため、比較的うまく機能していると考えられている〝視空間性ワーキングメモリ″を活用すること、例えば、視覚的な提示を行うなどの支援が必要です。
特化した方略
以下、著書を引用しながら見ていきます。
ワーキングメモリを支援するために、社会不安を減らす
言語性ワーキングメモリを支援するために、社会的な励ましを用いる
ルーティン化する
現実的な予測を作る
著書の内容では、不安症(群)の子どもへの〝特化した方略″として4つの方法が記載されています。
ワーキングメモリを支援するために、社会不安を減らす
不安症の子どもは、周囲の人からどのように見られているのかを過度に気にします。
そのため、他者と距離を取ったり、自分の思いを主張できないことがあります。
必要な支援としては、社会不安を減らすことです。
例えば、グループワークを活用することで他者との関わりの緊張を和らげていくなどがあります。
言語性ワーキングメモリを支援するために、社会的な励ましを用いる
〝言語性ワーキングメモリ″が苦手な不安症の子どもは、自分の思いや考えを述べることに困難さを持っています。
そのため、仲間と交流する機会を意図的に設ける必要があります。
そして、仲間との関わりの中で、他児に話しかけられるように励ますことが重要です。
ルーティン化する
不安症の子どもにとって、日々の活動の中での不確定要素が多いと、さらに状態が悪くになります。
そのため、確定要素を多くしていけるように、事前にスケジュールなどを提示していくことが必要です。
現実的な予測を作る
不安症の子どもは、非言語的とも言える完ぺきな計画や目標を立てることがあります。
こうした誤った予測を避けるために、現実的な計画や目標を一緒に立てていく取り組みが必要です。
以上、【ワーキングメモリを支援する方法について】不安症(群)を例に考えるについて見てきました。
不安症の人たちは、ワーキングメモリに脆弱さが見られます。
そのため、不安を取り除くことを中心に様々な対応をはかることがワーキングメモリをうまく稼働させるためには必要な支援となります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていきながら、療育現場で実施可能な支援を試行錯誤していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】」
トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.