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【ワーキングメモリと自閉症の関係について】療育経験を通して考える

投稿日:2023年11月6日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。

 

それでは、発達障害の中で自閉症の人たちは、ワーキングメモリにどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、ワーキングメモリと自閉症の関係について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら自閉症の人が抱えるワーキングメモリの特徴について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。

 

 

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自閉症のワーキングメモリの特徴について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

高機能ASDの子どものワーキングメモリは平均的です。低機能ASDの子どもは言語性ワーキングメモリに問題があり、これが、言語とコミュニケーションに大きな影響を及ぼします。

 

著書の内容から、自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の子どものワーキングメモリの特徴として、まずは、高機能か低機能かによって状態像に違いあると記載されています。

高機能とは知的に遅れのない人たちのことであり、低機能とは知的に遅れあり(IQ69以下)の人たちのことを指します。

一方で、境界知能(IQ70~84)といった領域にいる人たちもおり、知能の程度に応じても、同じ自閉症でも状態像が異なると考えられています。

ワーキングメモリの特徴としては、低機能の自閉症児には、言語性ワーキングメモリの困難さが見られると言われています。

 

また、高機能の自閉症児は、ワーキングメモリは平均的ではあるものの、以下のような情報処理の特徴があります(以下、著書引用)。

彼らは特に、非単語や新しい語彙などの抽象的な情報を覚えるのが困難です。

 

彼らが情報を覚える際に用いる方略が、ワーキングメモリに過度の負担をかけてしまうからです。

 

著書の内容から、高機能の自閉症児のワーキングメモリは平均的ではありますが、言語性ワーキングメモリを活用する場面で困難さが見られると記載されています。

例えば、新しい語彙や抽象的な情報の取り込みが難しく、その理由が、こうした情報を取り込む際に、自閉症の人が使用する記憶と処理の方略がワーキングメモリに多大な負荷をかけているためだと考えられています。

 

 

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著者の経験談

著者はこれまで子どもから大人まで多くの自閉症の方と関わる機会がありました。

その中で、ワーキングメモリといった情報処理に着目することもあります。

著者の印象としては、自閉症の人たちは、言語性ワーキングメモリの使用の方略が特徴的であるということと、視空間性ワーキングメモリは比較的得意な方が多いと言った実感があります。

言語性ワーキングメモリが特徴的なものとしては、機械的な情報の伝達においては、比較的情報の更新スピードがはやいと感じるものの、人の感情理解や場の状況の理解、物事の全体像など抽象的な理解を必要とする場面において、口頭のみのやり取ではうまくいかいことが多いといった印象があります。

うまくいかい理由としては、著書にもあったように、ワーキングメモリに多大な負荷がかかるため、処理できないことや処理に時間がかかるからだと思います。

一方で、視空間性ワーキングメモリといった視覚情報を記憶し処理する能力は高い傾向があると感じます。

例えば、ダブレットで情報を調べたり、辞書や本で興味のある知識をアップデートすること、事務処理におけるスピードがはやいなどが特徴としてあります。

もちろん、これらの特徴は人によって個人差があります。

そして、それこそ、高機能か低機能かによってもワーキングメモリの機能には大きな違いがあるように感じます。

 

 


以上、【ワーキングメモリと自閉症の関係について】療育経験を通して考えるについて見てきました。

繰り返しになりますが、自閉症の人たちの状態像も非常に個人差があります。

そのため、ワーキングメモリの特徴にも違いがあります。

一方で、今回見てきたように共通する傾向はあるように思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていきながら、療育現場で関わる子どもたちに必要な支援を届けていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.

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