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ワーキングメモリ 発達性協調運動障害

【ワーキングメモリと発達性協調運動障害の関係について】困難な特徴について考える

投稿日:2023年11月2日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。

 

それでは、発達障害の中で発達性協調運動障害(DCD)の人たちは、ワーキングメモリにどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、ワーキングメモリと発達性協調運動障害の関係について、発達性協調運動障害の人が抱えるワーキングメモリの困難な特徴について理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。

 

 

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発達性協調運動障害のワーキングメモリの特徴について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

これらの子どもたちは視空間性ワーキングメモリの障害があります。DCDの子どもが視空間性ワーキングメモリに問題を有する割合は、定型発達の子どもの7倍以上でした。

 

著書の内容から、発達性協調運動障害(DCD)の子どもたちは、〝視空間性ワーキングメモリ″に困難さがあるということがわかっています。

視空間性ワーキングメモリ″とは、視覚的な情報を記憶し処理する機能のことを言います。

例えば、頭の中で図形を操作したり、表や図を板書する(視覚情報を保持しながら動作を行う)、体育の授業で先生が行う動作を模倣するなどがあります。

図形問題では頭の中で図が回転することをイメージしたり、展開図をイメージすることが求められます。

こうした活動が苦手だと、例えば、算数など特定の教科の中のある単元で躓く可能性が出てきます。

また、板書は学習において重要な活動です。

板書を行うためには、先生が黒板に書いた、例えば表や図を一時的に記憶に留め、それを書き写す(動作に移す)必要があります。

表や図の全体像がイメージできないと、書き写すことが非常に困難になります。

体育の授業もまた視空間性ワーキングメモリを活用することがあります。

例えば、ダンスの授業で先生の動きを模倣するといった、人間の動きを記憶して動作に繋げていくなどがあり、視空間性ワーキングメモリに苦手さがあると、動作が複雑になるとワーキングメモリに多大な負荷がかかり、動作やリズムを取ることが難しくなります(もちろん定型発達の人にとっても難しいですが、困難さが顕著にでます)。

 

 


それでは、成人期にはどのような困り感があるのでしょうか?

以下、著書を引用しながら見ていきます。

DCDの成人にとって、新たに特定の動きを習得するような課題に取り組むことは非常に難しいことです。

 

著書の内容から、成人の発達性協調運動障害(DCD)の人たちにとっては、新しい動作を習得する課題に難しさを抱えていることが研究によりわかっています。

例えば、車の運転において、難しい駐車が求められること、新しい道を探すこと、混雑時の運転などにおいて、ワーキングメモリに負荷がかかるため運転が特に困難になります。

その他、新し動作・作業が必要となる際に、視空間性ワーキングメモリの容量がその動作・作業を獲得する上で非常に負荷がかかるため、業務のパフォーマンスが低下することがよくあります。

このように、成人期において、DCDのある人は、視空間性ワーキングメモリの困難さから運転や新しい作業(見て覚える・動作に繋げていく)といった仕事への困難さが見られると考えられています。

 

 


以上、【ワーキングメモリと発達性協調運動障害の関係について】困難な特徴について考えるについて見てきました。

発達性協調運動障害の研究はまだまだ発展途上の段階ですが、今回見てきた視空間性ワーキングメモリの苦手さは多くのDCDの特徴して見られることがわかっています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていくと同時に、様々な発達障害との関連性を調べていく中で、療育現場に応用できる考え方を試行錯誤していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【発達性協調運動障害とは何か?】不器用さについて療育経験を通して考える

関連記事:「【視空間性ワーキングメモリとは何か?】学習活動との関連性について考える

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.

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