発達障害児は、生得的な特性などが影響して、日常生活の様々な所で躓きが見られることが多くあります。
発達障害児への支援で有名なものとして〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″があります。
〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″とは、〝日常生活に関する技能を練習する方法″です。
それでは、ソーシャルスキルトレーニングの具体的な手順の進め方や、ソーシャルスキルトレーニングを行う上で大切な視点にはどのようなものがあるのでしょうか?
そこで、今回は、ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、SSTを発達障害児支援に活用する上で大切となる視点について理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.」です。
ソーシャルスキルトレーニングの手順について
以下、著書を引用しながら〝ソーシャルスキルトレーニング″の5つの手順について見ていきます。
① なぜ、このスキルが必要なのかを提示する(導入)
② 適切な行動と不適切な行動を見せ、良い点、悪い点を考えさせる(モデリング)
③ グループのリーダー(進行役)や参加している子どもを相手に練習する(ロールプレイ)
④ ロールプレイでうまくできた点を具体的に褒めてもらう(フィードバック)
⑤ 宿題として家庭や学校で練習した内容を実践し、振り返ることで、日常生活で定着させる(汎化)
著書の内容から〝ソーシャルスキルトレーニング″の手順は①導入→②モデリング→③ロールプレイ→④フィードバック→⑤汎化、の順で行われます。
まずは、①導入ですが、これは、身につけたいスキル、例えば、挨拶の仕方、友達への話しかけ方・誤り方、ヘルプサインの出し方など様々あり、子どもが何を欲しているかによって異なってきます。
次に、②モデリングですが、これは、実際に関わる支援者がやって見せることです。
例えば、相手との会話の進め方で言えば、相手が話し終わったら自分が話すという良い例、相手が話している最中に急に割り込んで話すという悪い例などを見せるなどがあります。
次に、③ロールプレイですが、これは、実際に身につけたいスキルを大人と一緒にあるいはグループの子どもと一緒にやってみることです。
次に、④フィードバックですが、これは、ロールプレイでやった実際の取り組みで良かった点を具体的に褒めていくものになります。
最後に、⑤汎化ですが、これは、SSTのグループで練習したことを、他の場所(家庭や学校など)でも実践し、実践内容を振り返りながら定着化を図るものになります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、一般的には少人数のグループで行われるものです。
また、絵カードなどの活用(ソーシャルスキルトレーニング絵カード)もまた有効だと言えます。
ソーシャルスキルトレーニングはなぜ必要なのか?
それでは、そもそもソーシャルスキルトレーニングはなぜ必要なのでしょうか?
ソーシャルスキルトレーニングを行う上で大切な視点について見ていきます(以下、著書引用)。
大切なことは、「本人が困っている」という視点です。
子ども自身が、「○○できるようになりたい」と思って取り組まなければ、本人のスキルは伸びていきませんし、セルフエスティームは上がっていきません。
著書の内容を踏まえると、ソーシャルスキルトレーニングの必要性は、子ども自身の〝困り感″と、それをベースに〝○○できるようになりたい!″といった子ども自身の思いから生じるということです。
例えば、うまく友達と遊びたいが集団の輪に入れないといった思いがあった場合に、友達への話しかけ方を練習することがSSTでは有効だと言えます。
逆に、大人が〝○○のようになって欲しい″、といった思いがあっても、子どもにその思いがなければうまくスキルを身につけることは難しいと言えます。
繰り返しになりますが、ソーシャルスキルトレーニングの必要性は、まずは、子ども自身の思いがあり、それを叶えるためのスキル獲得だという視点が大切になります。
著者の経験談
著者は学生の頃に〝ソーシャルスキルトレーニング″を数年にわたり行っていたことがあります。
そこで感じたことは、スキル獲得以前にコミュニティ・居場所の存在が非常に大切だということです。
5名程度の小グループで二週間に一回、約一年にわたり取り組んできましたが(このターンを約2~3回実施)、子どもたちやその保護者の方たちは、回を重ねるごとに、そこに集まることを楽しみにしてくる様子が増えていきました。
現在の著者は放課後等デイサービスで小学生を対象に療育をしていますが、今でもコミュニティ・居場所の大切さを肌で感じ続けています。
子どもたちは、安心できる環境の中で、新しい繋がりと様々な身体経験を積み重ねています。
そこで培われる社会性の育ちが〝ソーシャルスキル″の獲得以前に、とても大切だと感じています。
子どもたちは社会性の育ちの中で、〝もっと友達とうまく遊べるようになりたい!″〝困ったときにうまくヘルプサインを出せるようになりたい!″など、様々な思いが出てきます。
こうした子ども自身の思いが出てくることが、〝ソーシャルスキル″の獲得以前にとても重要だと思います。
そして、〝ソーシャルスキルトレーニング″は、社会性の育ちの中で、より効果を発揮していくのだと思います。
以上、【ソーシャルスキルトレーニング(SST)とは何か?】発達障害児支援で大切な視点について見てきました。
発達障害児は、定型発達児とは異なり、他者の振る舞いなどを参考にして、社会性を自らの力で獲得していくことを苦手としています。
そのため、ソーシャルスキルトレーニングはこうした発達障害児において有効だと考えられています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場を中心に、子どもたちの豊かな社会性の育ちと、必要なソーシャルスキルの獲得ができるような支援を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考える」
関連記事:「【〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルとは?】発達障害児支援の現場から考える」
岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.