発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
中でも、〝触覚過敏″の問題は様々な文献や著者の療育経験を通しても多く見られます。
その一方で、そもそもなぜ〝触覚″の発達は大切だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、なぜ触覚の発達は大切なのかについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
なぜ触覚の発達は大切なのか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
・触れるものが増える=安心できる場所が増える→世界の拡張
・触れる人が増える=安心できる人が増える→安全基地の増加
著書の内容を踏まえると、様々な〝もの″や″人″に〝触れる″経験を通して、〝安心感″を拡張・増加させていくことが触覚の発達において大切だと言えます。
逆に、様々な〝もの″や〝人″に〝触れる″経験を通して触覚を発達させていくことができます。
例えば、初めて見る〝もの″(植物・生き物・おもちゃなど)と子どもが関わる際に、触って見て安全性を確認することがあります。
〝触る″という行為を通して、そのもの(対象)を認知することが〝触覚″の一つの働き(他の感覚と共同しながら)でもありますが、まずは、安全か安全でないかといった危険認知に関わる重要な外界とのインターフェースの役割を〝触覚″という感覚、〝触る″という行為が担っていると言えます。
また、ものだけでなく〝人″においても安全か安全でないかを確認をする一つの手段として〝触る″という行為があります。
子どもは安全できる人には、自分から進んで触るなどスキンシップを取っていきます。
このように、様々な〝もの″や〝人″に触れていくことで、人は〝世界を拡張″させ、そして、〝安全基地を増加″させていくことができます。
著者の経験談
著者は療育現場を通して、様々な発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わってきています。
その中には、〝触覚過敏″の問題を抱えている子どもも少なからずいます。
その一方で、子どももたちは様々な経験を通して自分なりのペースで触覚を発達させていく様子が伺えます。
例えば、以前は、粘土などの感触遊びができなかった子どもが道具を使って遊ぶことができるようになった、さらには、自分の手で触れることができるようになった、最終的には、両手でダイナミックに触ることができるようになった子もいます。
また、人に対して、うまくスキンシップを取ることができなかった子どもが、少しずつ大人と触れ合うことができるようになった、そして、スキンシップを好んで行うことができるようになった、さらには、様々な大人と体を使って遊ぶことができるようになった子もいます。
このように、仮に、様々な〝触覚過敏″が見られたとしても、関わり方・対応方法を工夫していくことで少しずつ改善していった事例も多く見られています。
著者は療育実践で大切にしていることは、様々な感覚をフルに使った生体験だと考えています。
例えば、自然と触れ合う経験、様々な材料を使って制作物を作る経験、体を使って他者と触れ合う経験は、触覚をはじめ様々な感覚を使うことができます。
特定の感覚しか活用しないないもの(メディア・ゲームなど)だと、先述した世界の拡張や安心感の増加には繋がっていきません(部分的には心の拠り所になる面もあると思います)。
もちろん、メディア・ゲームによる楽しみ方・メリットもあると思いますが、特定の感覚に依存した遊びの量が多くを占めると、その後の育ちの中で、想像力・創造力など(いわゆる非認知能力と言われている力)を養うことが難しくなっていくのだと思います。
そのため、様々な感覚を通して世界と繋がり、世界を拡張する経験を幼い頃から積み上げていくという視点を持つことが大切だと感じています。
最近では、子どもが、外遊びができる場所が減ってきていることも問題だと思います。
著者が子どもの頃は、近所の空き地や公園などで友人と様々な遊びを自分たちで考えて行うことがとても楽しかったことを思い出します。
そのため、当時の楽しかった原体験を振り返りながら、今取り組める療育実践を考えていくことも大切にしています。
以上、【なぜ触覚の発達は大切なのか?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
触覚に問題(触覚過敏など)があると、世界と繋がっていく上で、様々な支障が生じることがあります。
そうなると、安全エリアを拡張することに難しさが生じていきます。
そのため、療育実践に携わる人たちは、触覚の重要性について理解を深めていきながら、触覚の問題への理解と対応策を考えていくことがとても大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も様々な感覚についての理解を深めていきながら、感覚からのアプローチ方法についても実践できる力を身に付けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.