〝社会性″とは、様々な定義や表現があるかと思いますが、一つ定義を取り上げると、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと言えます。
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〝社会性″の育ちには、他者と体験を共有する〝共同行為″が重要であり、〝共同行為″により、生活スキルの獲得や他者と目的を共有した関わりの中で得られる様々な〝社会性″の育ちがあります。
〝社会性″の育ちには、他者の意図理解やコミュニケーション能力の育ちもありますが、他者と情動を共有する中で身につける〝感情のコントロール″もあります。
〝感情のコントロール″は、別な表現で〝情動調整″とも言えます。
それでは、〝情動調整″はどのようにして育まれるのでしょうか?
そこで、今回は、〝社会性″の発達で大切なことについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、〝共同行為″の中で見られる〝情動調整″の育ちについて考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.」です。
〝共同行為″の中で見られる〝情動調整″の育ちについて
以下、著書を引用しながら見ていきます。
共同行為には情動の共有が必ずともなっている。情動の共有は健常児では生後1ヶ月から可能であるが、その後も一貫して共同行為にポジティブな情動、あるいは場合によってはネガティブな情動をともない、多くの場合、着替えや、入浴などの共同行為を行う大人と、それらの情動を共有する。
そしてさらに、子どもは情動を調整する。情動の調整とは、情動を表出したり、抑制したりすることで、行為にともなって行われる。
著書の内容から、〝感情のコントロール″といった〝情動調整″には、〝共同行為″を通して、他者と様々な情動を共有する経験の中で徐々に育まれていくと言えます。
そして、情動の共有を通して、自分の気持ちを表出したり、あるいは、自分の気持ちの抑制の仕方を学習していきます。
例えば、やりたいことがあるときは自分の気持ちを他者に伝え(表出し)、我慢しないといけない時には自分の気持ちを抑える(抑制する)ことがあります。
自分の気持ちを単純に表出・抑制する段階から、徐々に場面や状況に応じて、表出・抑制ができるようになっていきます。
例えば、学校など公共の場では周囲に迷惑がかかるため、自分の気持ちを抑えていた子が、家に帰りリラックスモードになると抑制が外れ、自分がやりたいことを親に要求することが増えるなどがあります。
こうした、気持ちの表出・抑制は子どもが独力で身につけるというものではなく、周囲の大人が子どもの気持ちに寄り添いながら、様々な情動を共有していく中で身に付けていきます。
そのため、〝情動調整″の育ちの基礎には、他者と体験を共有するといった〝共同行為″があると言えます。
著者の経験談
著者の療育現場でも、〝共同行為″を通して、〝情動調整″が育ってきたと感じるケースは多くあります。
以前は、自分の思いをストレートに爆発(表出)させていた子が、自分の気持ちを抑制し大人に相談しにきたり、自分の気持ちを冷静に伝えてくるなどの頻度が増えたと感じる子もいます。
また、以前は、自分の感情が爆発すると手に負えなかった子が、大人が関わることで気持ちの爆発にセーブがかかる頻度が増えた子もいます。
こうした〝情動調整″の育ちの背景には、大人との〝共同行為″を通して、様々な経験の中で沸き起こる気持ちを共有してきたことがベースとなっているのだと実感しています。
一方で、時には、気持ちがすれ違うことや、子どものネガティブな気持ちをあるがままに受け止めるなど、同じ体験をしてもうまく思いが通い合わないこともあります。
こうした辛い時期を乗り越える過程の中で、著者は子どもが何を欲しているのか?どのような思いを持っているのか?どのような関わりを求めているのか?という想像力を鍛えられたのだと思います。
そして、子どもたちの気持ちを想像していく中で、子どもとの関係性は徐々に進んでいくのだと思います(もちろん、紆余曲折ありますが・・・)。
著者の経験を振り返って見ても、〝情動調整″の育ちには、〝共同行為″といった共に同じ活動を行った中で様々な気持ち(情動)を共有してきたこと、共有経験の中で築き上げた信頼関係がベースにあるのだと思います。
以上、【〝社会性″の発達で大切なこと】〝共同行為″の中で見られる〝情動調整″の育ちから考えるについて見てきました。
今回見てきたように、〝共同行為″を通して、〝情動調整″の力もまた、〝社会性″の一要素として発達していきます。
そのため、同じ体験を共有するだけではなく、その経験の中で、様々な気持ちを交流していくことが感情の育ち(情動調整の育ち)においてとても重要であると言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育を通して、子どもたちと活動の中で様々な感情を交流する機会を多く作っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.