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【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考える

投稿日:2023年3月6日 更新日:

社会性″とは、様々な定義や表現があるかと思いますが、一つ定義を取り上げると、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと言えます。

 

関連記事:「【〝社会性″とは何か?】療育で〝社会性″を育てるために大切なこと

 

一方で、〝社会性″を育てるための技能・方法として、〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″といったものがあります。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)″は、発達障害など、コミュニケーションの困難さを抱えている人たちに、例えば、挨拶の仕方、会話の始め方、相手の話の受け応え方など、対人関係や集団生活を生きやすくするための技法を身につけていくものです。

 

それでは、〝社会性″と関連性の深い〝ソーシャルスキルトレーニング″は、お互いにどのような関係にあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係について、臨床発達心理士である著者の療育経験を交えながら大切な視点についてお伝えしていきます。

 

 

今回参照する資料は「長崎勤・森正樹・高橋千枝(編)(2013)シリーズ:発達支援のユニバーサルデザイン 第1巻 社会性発達支援のユニバーサルデザイン.金子書房.」です。

 

 

〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係

以下、著書を引用しながら見ていきます。

発達障害児に対し、「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」として、ルール優位な指導が行われることがある。それ自体が間違っているということはないが、その前提としての「共に在ることを心地よいと感じること、また楽しむこと」の支援なしに「SST」だけが先行することに筆者は疑問を感じている。

 

「共に在ることを心地よいと感じること、また楽しむこと」も十分に経験し、またそうできる支援を行いつつ、または並行して行ってこそSSTは意義を持つのではないかと思っている。

 

著書の内容から、ソーシャルスキルトレーニングの学習の前に、まずは、他者と共に在ることの心地よさや楽しさを感じる体験を重ねることが大切だとしています。

逆に、こうした体験を抜きに、ソーシャルスキルトレーニングが先行してしまうことは、社会性の育ちにおいて疑問を感じるとも記載されています。

ソーシャルスキルの学習の前に、スキルを学ぶ必要性や、学びたい動機が〝社会性″(人と共に活動することは楽しいという基盤)の中で育っていることが大切ということです。

つまり、社会性″が基礎となり、その上で(その中で)、〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の効果が出てくるのだと言えます。

あるいは、〝社会性″の育ちに重要な安心できて楽しい環境を体感してもらう支援と並行して、〝ソーシャルスキルトレーニング″を実施していくことが大切だと言えます。

 

 

著者の経験談

著者は以前、発達障害のある小学生を対象に数年間、〝ソーシャルスキルトレーニング″をしていたことがありました。

その経験を通して、多くの学びがあったことは、その場・環境がまずは子どもたちにとって楽しい場であったということです。

そのためには、もちろん、プログラム自体も子どもたちが集団でハマることができるように工夫されており、子どもたちはプログラムを中心にお互いを意識し合い、次第に仲良くなり、最終的にはその場・環境そのものがとても大切だと思える状態になっていきました。

そのため、〝ソーシャルスキルトレーニング″といった、訓練・練習を行ってきたというよりは、楽しい場の中で(場を作りながら)自然と挨拶の仕方や、お互いを意識した場に適した言葉がけなどを教えていったという印象の方が強くあります。

もちろん、学んで欲しい学習内容などは事前に決めることを行い、モデリングなどの教示方法やできたときのフィードバックも行っていました。

しかし、こうした技法以上に、楽しめる活動を通して身につけた〝社会性″が〝ソーシャルスキルトレーニング″を支えるものであったと思っています。

 

そして、今の療育現場でも、同じように、まずは子もたちが安心して楽しく活動できる環境づくり、関わり方の工夫などをしています。

その中で、先に見た〝ソーシャルスキルトレーニング″にも通じる技法を伝えていくことが、子どもたちが本当に使えるスキル、使いたいスキルとして定着していくように思います。

 

 


以上、【〝社会性″と〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″の関係】療育経験を通して大切な視点について考えるについて見てきました。

〝ソーシャルスキルトレーニング″は時と場合によってはとても大切なものだと感じています。

しかし、スキル学習が先行してしまうことは、本来、人との関わりをうまくいくために行う練習であったものが、人と関わりたくないものへと変わってしまう可能性が出てきてしまうと感じます。

このように、〝ソーシャルスキルトレーニング″はその前段階として、〝社会性″を育てることを大切にしてこそ、初めてその効果が出るのだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も〝社会性″の育ちを基盤として、〝ソーシャルスキルトレーニング″への知見の理解も深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【〝社会性″の発達で大切な2つのこと】療育経験を通して考える

 

長崎勤・森正樹・高橋千枝(編)(2013)シリーズ:発達支援のユニバーサルデザイン 第1巻 社会性発達支援のユニバーサルデザイン.金子書房.

 

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