〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことを指します。
子どもが安定した愛着を形成していくためにも、安全・安心感を基盤とした養育環境がとても大切です。
一方で、適切な養育環境ではない環境下に置かれてしまった場合(虐待ケースなど)には、〝愛着(アタッチメント)障害″に繋がるリスクが高まります。
ここ最近では、愛着研究などの発展も含めて愛着に関する社会的理解が進んだこともあり、愛着の重要性や愛着障害への理解が広く認識されはじめています。
一方で、〝アタッチメントの問題″があると、すぐに〝アタッチメント障害″の可能性を疑ってしまうなど誤った理解に繋がるリスクもあります。
それでは、〝アタッチメント障害″と混同しやすい〝アタッチメントの問題″とは一体どのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、〝アタッチメントの問題″とは何かについて、〝アタッチメント障害″との違いを通して理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.」です。
〝アタッチメント障害″とは何か?
アメリカ精神医学会によるDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル:第5版)によれば、〝アタッチメント障害″には、〝反応性アタッチメント障害″と〝脱抑制型対人交流障害″の二種類があると記載されています。
それでは、二種類ある〝アタッチメント障害″をまとめると、どのような特徴があるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
どちらも、特定の相手との間にアタッチメント関係を形成することができない、誰との間にも選択的な(「この人」という特別な人を選択する、区別化すること)アタッチメント欲求を向けることができないという姿があります。
誰ともアタッチメント関係を形成できないという点から、「アタッチメント障害」は、子ども個人に対して診断されます。
冒頭に記載の通り、〝愛着(アタッチメント)″とは、〝特定の養育者との情緒的な絆″のことでした。
子どもは〝特定の″人(養育者などをはじめとした)との間に強固な信頼関係を築いていきます。
そして、〝特定の″人との間で形成された〝組織化された対人方略(愛着スタイル)″は、その後の〝アタッチメント対象(友人や恋人など)″においても、愛着行動(欲求)を示す基盤となると考えられています。
〝アタッチメント障害″があると、誰にも愛着行動(欲求)を向けることができない、あるいは、誰彼構わず愛着行動(欲求)を向けるといった〝特定の″他者が定まらないなど、未組織化された対人方略(愛着スタイル)を活用するといった特徴があります。
そのため、著書にあるように、〝アタッチメント障害″とは、個人に対して診断されるものとなります。
それでは、〝アタッチメントの問題″はどうでしょうか?
以下、この点について見ていきます。
〝アタッチメントの問題″とは何か?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「アタッチメントの問題」はその相手と子どもとの間にある問題であり、子ども個人の問題ではありません。
著書にあるように、〝アタッチメントの問題″とは、子どもがある特定の相手との間で問題を抱えていることを指しているため、、〝アタッチメント障害″に見られる個人の問題ではないといった違いがあります。
つまり、子どもが特定の大人との間に関係の難しさがあるからといって、〝アタッチメント障害″だとは簡単には言えないといったことが考えられます。。
〝アタッチメント障害″とはあくまでも個人の対人様式の困難さに帰結する問題であり、子どもと特定の他者に見られる二者関係の問題とは異なると言えます(もちろん、この中にも〝アタッチメント障害″の人はいる可能性もあると思いますが)。
こうした用語(〝アタッチメント障害″〝アタッチメントの問題″)の整理を行っていくことが重要であると著書には記載があります。
そして、愛着(アタッチメント)に問題がありそうな場合であっても、安易に〝アタッチメント障害″とは言えない場合もあるため注意が必要であると言えます。
以上、【〝アタッチメントの問題″とは何か?】〝アタッチメント障害″との違いを通して考えるについて見てきました。
愛着研究が進んでいく中で、様々な用語の整理や誤った理解をしていかないことが大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もさらに愛着に関する学びを深めていきながら、正しい知識を獲得していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「愛着障害の3つのタイプについて考える」
篠原郁子(2024)子どものこころは大人と育つ:アタッチメント理論とメンタライジング.光文社新書.