私がいた以前の療育施設では、年に一回、家族参観という一大行事がありました。いくつかある園の行事の中でも規模の大きなものだったと思います。
当時私が受け持っていたクラスには、自閉症児、知的障害児、ダウン症児、肢体不自由児等様々な障害を持ったお子さんたちがいました。非常に多様な集団でしたので、その集団が一つになって楽しめる遊びの工夫が必要です。
今回は、療育施設で行っていた家族参観の中で、私が当時の職場を離れる最後の家族参観に実施した「ワニワニパニック遊び」の療育体験について、遊びを考え実施するまでの過程についてお伝えしていこうと思います。
毎年、園の行事になると新規性のあるオリジナルな内容のものが要求されます。それは、これまで保護者の方が見ていないもの、そして、毎年変わるクラス集団にとってその集団だからこそできるものが必要になるからです。
私は家族参観一か月前頃から、活動内容に関するイメージ作りをはじめ、その後、他のクラス職員と共有します。漠然としたイメージの時は候補を複数持つようにしていました。そして、その候補を他の職員たちとすり合わせながら、もう少しイメージを膨らませる感じです。
私がこうした過程において大切にしていたことは、普段の遊びからヒントを得ることです。例えば、今年取り組んだ中で、比較的子どもたちがハマった遊びを選び抜きます。
そして、その中で全員が参加した場合に、個々に応じてどのような工夫や配慮が必要かを考えます。さらに、その遊びをどうやって展開していくのかを考えていきます。
こうしたイメージ作りから遊びの決定、個々の遊びの楽しみ方、遊びの展開などの過程を踏まえて、次に実際に実施した「ワニワニパニック遊び」を例に取りお話します。
最初にイメージ作りです。
私はそれまでクラスで「ワニワニパニック遊び」は一度もしていませんでしたが、似たようにものに「モグラたたき遊び」はやっていました。どちらも、穴から出てきた「ワニ」や「モグラ」を叩くという意味では似ています。
非常にシンプルな遊びでしたが、それまで取り組んできた遊びの中で、クラスのどのお子さんたちも興味をもって取り組んでいたため、私は単純に「穴から出てくるものを何かで叩く」という遊びがいいのではないかと直感的に思いました。
それで思いついたのが、ゲームセンターによくある「ワニワニパニック遊び」です。
その他にも候補はありましたが、その候補も含め、他のクラス職員に相談し、全員一致で決まりました!
ここで注意が必要なのは事前に子どもたちに作ったものを見せないということです。一度、見せてしまうと当日「あっ、これやったことある!」と言い、興味をなくす子どももいるからです。ですので、当日まで作ったものは隠しておきました。
次に個々の遊び方を考える作業です。
その時のポイントは、ハンマーで叩く、手で叩く、手で触るなど手の動作に関するアセスメントと、穴から出てくるものを、追視できる、注視できる、あるいは、複数の穴から出てくるものを、同時に目で追えるかなど、眼球運動に関するアセスメントが必要になります。
私はこうした目と手の動きを「モグラたたき遊び」をやった際に、少しずつ観察し、子どもたち一人ひとりの発達を分析しました。また、穴から出てくるものをいろいろと変えてみることで、子どもたちがどのように注目するか等も試行錯誤しました。
このように普段の遊びの中での観察が新しい遊びを実施する際にはとても重要になります。
最後に遊びの展開です。
まずは、子どもたち一人ひとりが穴から出てきたワニを叩いて遊びます(叩き方は様々です)。
次にゲーム性を取り入れていきました。子どもとその家族の一人が代表でチームを組み、制限時間内にどれだけワニを叩くことができたのかを競い、優勝者には自作のメダルを贈呈するという内容にしました。
また、保護者の方からも、ワニを出したり引いたりするという重要な役割をお願いし、ご家族の多くを巻き込む計画を立てました。
以上が、遊びを考え実施するまでの過程となります。
ちなみに、実際に取り組んでみて非常に盛り上がり、子どもたちもそのご家族もとても喜んでいました!
このように遊び一つ取り上げても、子どもたちやその集団に合わせた様々な工夫が必要になります。私も、上記の過程を最初から意識していたわけではなく、思考錯誤の結果、そうなったという感じです。
家族参観はみんなで子どもたちの発達を共有する貴重な場でもあります。発達を共有する際に「遊び」から見せる子どもたちの様々な姿は、子どもたちの成長を実感することのできる大切な要素です。
今後も「遊び」から見えてくる子どもたちの発達について多くのことを学んでいこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。