発達障害が社会の中で認識される機会が以前より増えてきています。
このような背景には、学術的な理解の広がりや当事者やその家族からの発信など、情報を通して多くの人が発達障害を知る機会が増えてきたことがあると言えます。
そんな中で、ある発達障害の特性に該当するも、他の発達障害にも該当するといった複雑なケースもあります。
2013年のDSM-5 以降、併存診断が可能になったこともあり、今後はより発達障害の併存という観点が重要になってくると考えられています(例えば、ADHD+ASDの二つの診断名がつくなど)。
それでは、発達障害で代表的なADHDとASDには、どのような共通点や違いがあると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、ADHDとASDの共通点と違いとは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、発達障害の併存も含めて理解を深めていきたいと思います。
今回参考にする文献として、本田秀夫著「発達障害:生きづらさを抱える少数派の「種族」たち」と司馬理英子著「最新版 真っ先に読むADHDの本」を参照していきます。
ADHDとASDについて
ADHD(注意欠如/多動性)は、不注意、多動性、衝動性を特徴とした発達障害です。
ASD(自閉症スペクトラム障害)は、社会性やコミュニケーションの問題、こだわり行動を特徴とした発達障害です。
ADHDは、行動面の問題、ASDは認知面の問題とも考えられています。
ADHDとASDの共通点と違いについて
ここで、ADHDとアスペルガー症候群(現在はASDに統一)との共通の特徴や違いについて、司馬(2020)を参照しながら見ていきます。
アスペルガー症候群とは、ASDの中で言葉の遅れがない人達のことをいいます。
多動➢ADHD:あることも、アスペルガー症候群:あることも(状況が理解できないときなど)
不注意➢ADHD:問題あり、アスペルガー症候群:偏りがある(好き嫌いで差が出る)
衝動性➢ADHD:あることも、アスペルガー症候群:あることも(状況が読めなときなど)
言語➢ADHD:遅れはない、アスペルガー症候群:著しい遅れはない(一方的な話し方、冗談が通じないなど)
対人関係➢ADHD:さほど問題なし(行動内容によってはトラブルを起こすこともあり)、アスペルガー症候群:問題あり(他者の意図や気持ちの汲み取りが難しい)
こだわり➢ADHD:ない、アスペルガー症候群:ある(興味関心が強い)
感覚➢ADHD:問題なし、アスペルガー症候群:あることも(感覚が敏感・鈍感など)
その他➢アスペルガー症候群には不器用さ(発達性協調運動障害)が見られることもある
このように、ADHDとアスペルガー症候群(現在はASDに統一)との間には、共通する特徴や違いがあります。
また、共通する行動特徴に関しては、行動特徴が似ていても、背景となる要因は異なると考えられています。
現在の医療現場では、一つの障害特性だけが存在し、そのための診断のみで対応可能というケースは比較的少ないと考えている人もおります。逆にどれか一つの特性だけが顕著に出ていると非常に理解しやすいと言われています(本田,2018より)。
こうしたことから、今後は様々な発達特性を理解し、特性の強度や、併存に関する理解、そして、場面に応じて見られる困り感などを理解していくことが重要だと言えます。
著者の体験談:発達障害の併存について
次に、著者の身近な人で両方の特徴(ADH:注意欠如多動・AS:自閉スペクトラム)が見られる事例について見ていきます。
成人男性のAさんは、言語の遅れはなく(むしろ高い)、もともと人とのコミュニケーションや対人距離の取り方が独特な人でした。
周囲を気にする様子は少なく(本人なりの気遣いはしている想定されますが)、自分が興味のあることを急に話しはじめたり、自分のペースで行動を進めている印象が強く見られていました。
こうした特徴からAS傾向が強い人なのではという考えは昔からありましたが、Aさんは他にも忘れ物が多い、ソワソワと動いていて落ち着きがないなど、ADH傾向も同時に多く見られていました。
当時の著者は、発達障害の併存といった視点を詳しく知らなかったため(知っていても実体験としての認識が薄い)、何か一つの発達障害の特性で理解しようとしていました。
例えば、ASDに見らえる発達特性、あるいはADHDに見られる発達特性などです。
一方で、ここ最近、それだけでは現場で関わる発達につまずきのある子どもたちや当事者スタッフの人を理解することが難しいという結論に至り、発達障害の併存という観点を考えるようになっていきました。
併存という視点を加えることで、現場で関わる子どもたちや周囲の発達障害のある人を観察してみると、意外にもそれまでわからなかった行動の背景を説明できることが増えていった印象があります。
先ほどのAさんの例でも見たように、ある認識のみで人を理解しようとすることには限界があると思います。
重要なのは、相手をより深く理解するために探求心を止めないこと、他の意見や知識を多く吸収し、自分の目で見て感じ考えることだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も目の前の子供たちをより深く理解し、より良い支援ができるように様々な観点を自分の中に取り込んでいきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
本田秀夫(2018)発達障害:生きづらさを抱える少数派の「種族」たち.SB新書.
司馬理英子(2020)最新版 真っ先に読むADHDの本:落ち着きがない、忘れ物が多い、待つのが苦手な子のために.主婦の友社.