著者は現在、自閉症を中心とした発達障害児への支援を放課後等デイサービスで行っています。
その中で、療育現場で発達に躓きのある子どもたちと関わっていると、子どもの行動の背景要因に対する多くの疑問が出てきます。
発達障害というと、自閉症やADHDなどの発達特性を理解していきながら、配慮や支援を行っていくことが大切です。一方で、子どもたちが見せる行動要因を考えた際に、発達特性と結びつけて理解を行うと、どの発達特性がそもそも要因となっているのかが分からなくなることがあります。
それではその中でも、比較的理解が簡単そうで実際の所理解が難しい自閉症とADHDの違いとは何でしょうか?
そこで、今回は、自閉症とADHDの違いについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.」です。
自閉症とADHDの違いについて
以下、著書を参照しながら見ていきます。
ADHDと自閉症スペクトラム障害には似ている特性があり、幼児期にはとくに、どちらの障害による行動なのか見分けがつきにくい場合があります。
著書の内容から、自閉症とADHDの見分けがつきにくいことがよくあると記載されています。
もちろん、自閉症とADHDは併存率も高いことから、両者の特性を併せ持っている可能性もあります。
また、自閉症やADHDなどの発達特性は、スペクトラムですので、特性の濃淡も人によって非常に個人差があります。
また、ADHDというと、多動性・衝動性がどちらかというと目立つため、不注意優位型のお子さんは理解がされにくいことがあります。
さらに、その子が育っている環境からの影響により特性が目立つか目立たないかに大きく影響していきます。例えば、学校で物の管理や整理整頓をしっかりしないといけない場合には不注意がより目立つようになったり、集団活動が多い環境になって初めて対人・コミュニケーションの苦手さがより顕著になることがあります。
こうした様々な要因が重なることで、どの特性が目立つかは変化していくものです。
それでは次に、具体例から自閉症とADHDの違いについて見ていきます。
著書では遊びを例に両者の違いについての説明があります(以下、著書引用)。
トランプあそびをしている友だちの手札を別の子どもに教えてしまう
ババ抜きなどで自分の手札(自分がババを持っている場合)を読まれないように表情や仕草などで偽りの動作を取るといった遊びは多くの人が一度は体験しているかと思います。
こんな時に、一緒にババ抜きをしている人(あるいは近くで見ている人)が、隠しているババの場所を言ってしまうということです。
周囲からすると“空気読めない人”となってしまいます。
こうした行動の背景要因は自閉症とADHDでの以下の違いがあるとしています(以下、著書引用)。
自閉症スペクトラム障害の場合
ルールがわからず、見たままを言ってしまう
→“暗黙の了解がわからない”ことが原因
ADHDの場合
ルールは理解しているが、とっさに口にしてしまう
→“衝動性”が原因
このように著書の遊びの例を見ると、遊びのルールを破ってしまうという行為でも、自閉症の場合には、暗黙の了解がわからないことが背景要因であり、そして、ADHDの場合には、衝動性が背景要因ということになります。
自閉症の特性の一つは社会には守らないといけない暗黙のルールがあるということを理解する苦手さがあります。
つまり、そもそものルール理解が難しい状態が見られるということです。
ADHDの特性は、ルールは理解していますが、思い立ったら行動や言動に直ぐに移してしまうという衝動性があります。
こうして両者の行動背景から、先の遊びでの行動を見ると、結果的に、ルールを破ってしまうという行動にも明確な違いがあるということがわかります。
以上を踏まえて、次に、著者の経験談から自閉症とADHDの違いについてお伝えします。
著者の経験談
著者は、遊び始める前に、参加する皆が楽しめる・理解できるルールを最初に提案するように心掛けています(もちろん、うまくいかないこともあります)。
カードゲームやボードゲームなどルールがしっかりと定まっているものはマニュアルを参照します。
その中で、先に上げたカードゲームにもあったように、療育現場で様々な遊びをしていると子どもたちの発達特性を顕著に感じることがあります。
例えば、戦いごっこをしていても、急にルールを変更しようとしたり(その場の空気を読まずに)、突然、ルールを逸脱する行動もまたよく見られます。
前者のルールを急に変える行動は一見すると“衝動性”が影響しているようにも見えますが、事前に皆が決めたルールの基準を一人で勝手に変えようとする点からみると、“他者の視点をくみ取る力の弱さ”や“暗黙の了解がわからない”といった背景要因の可能性が高いと考えられます。
一方で、後者のルールを逸脱する行動は、“衝動性”が原因となっている場合もあります。衝動性が原因の場合には、事前に決めたルールを著者が確認すると納得する様子が多く見られます。
このように、遊び一つとってみても、子どもたちの行動の背景要因は非常に多様であり、奥が深いという実感があります。
そして、こうした子どもたち一人ひとりの行動の背景要因を理解していくことで、活動がうまく進むようになっていくという実感もまたあります。
以上、自閉症とADHDの違いについて【療育経験を通して考える】について見てきました。
今回は、自閉症とADHDの違いについて取り上げましたが、その他にも、知的障害の有無など他の発達障害があるかないかでも、行動の背景要因は変わっていきます。
こうした子どもたちの行動の背景要因を追求していくことは、子どもたち一人ひとりの深い理解と適切な配慮に繋がると思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も、子どもたちの行動の背景要因について分析する視点も大切にしていきながら、より良い療育を行っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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榊原洋一(2019)最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本.ナツメ社.