「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
そして、自閉症の人たちは、定型発達の人たちと比べると心の理論の獲得時期が遅れることが分かっています。
それでは、定型発達の人たちはどのようなプロセスで他者の心の状態を理解できるようになるのでしょうか?
そこで、今回は、心の理論から見た他者理解のプロセスについて、定型発達を例に考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.」です。
心の理論を調べる〝誤信念課題″について
心の理論を調べるテストに、〝誤信念課題″があります。
〝誤信念課題″とは、〝他者の心を理解する能力″を調べる課題のことを言い、代表的な課題として〝サリーとアンの課題″があります。
一般的に定型発達児は4~5歳頃にこの課題を通過すると言われています。
〝サリーとアンの課題″とは以下の内容を見て最後に質問に答えるといったものです。
①サリーがビー玉を自分のカゴに入れる。
②サリーが部屋を出ていった後で、アンがビー玉を別の場所(自分の箱)に隠す。
③その後、サリーが部屋に戻ってくる。
④子どもに、「サリーはどこを探すでしょうか?」と尋ねる。
正解は、「サリーのカゴ」となります。
この課題を正解するためには、「サリー」という「他者」の誤った信念を理解しなければいけません。
〝サリーとアンの課題″は正確には〝一次の心の理論″を調べる課題となっています。
心の理論にも発達段階があり、一次の心の理論の次は〝二次の心の理論″になっており、〝二次の心の理論″を調べる課題が〝二次誤信念課題″になっています。
〝二次誤信念課題″とは、「他者の心を表象する別の他者の心が理解できる」ということを測定する課題です。より具体的に言うと、「他者の心をイメージしているさらに別の他者の心(信念)を理解する」能力を調べるものです。
そして、〝二次の心の理論″は一般的に定型発達児では、6~9歳頃に獲得すると言われています。
定型発達児者の他者理解のプロセスについて
それでは、定型発達児は他者の心の状態を理解する上で、どのようなプロセスがあるのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
定型発達児は、①誤信念課題そのものに誤答するレベル、②誤信念課題には正答できるが理由づけはできないレベル、③誤信念課題も理由づけも正当できるレベルがあること、そして、発達的に①→②→③と移行することが明らかにされました。
定型発達児はまず直感的心理化を獲得し、それを保持・洗練しながら命題的心理化を獲得する
著書の内容から、定型発達児は①〝誤信念課題″に誤答するレベル→②〝誤信念課題″に正答できるレベル(理由づけはできない)→③〝誤信念課題″に正当でき理由でづけもできるレベル、といった他者理解のプロセスがあることが分かっています。
直感的心理化は②のことを指し、命題的心理化は③のことを指します。
つまり、定型発達児は人の心の状態を説明はできないが直感的に理解できるようになり、その後、人の心の状態の直感的理解に加え、言葉での説明も合わせてできるようになります。
以上、【心の理論から見た他者理解のプロセス】定型発達を例に考えるについて見てきました。
定型発達児者にとって、他者の心を理解する場合には、まずは何となく○○と思った、○○と感じたといった漠然とした理解が先行しているとうことです。
そして、その後、その漠然とした理解を言葉で説明していくというプロセスがあるということは著者のこれまでの経験を振り返って見ても実感できることが多くあります。
私自身、今後も心の理解はどのようにして可能となるのか?そして、日々の療育現場で関わっている子どもたちがどのようにして人の心を理解しようとしているのか?について様々な研究知見も踏まえて学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【一次の心の理論、二次の心の理論とは何か】療育経験を通して考える」
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子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.