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【ワーキングメモリを支援する方法について】自閉症を例に考える

投稿日:2023年11月7日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。

中でも、高機能の自閉症の人たちはワーキングメモリが平均的であり、低機能の自閉症の人たちは言語性ワーキングメモリに困難さがあることが分かっています。

 

関連記事:「【ワーキングメモリと自閉症の関係について】療育経験を通して考える

 

それでは、自閉症の子どもに対してどのようなワーキングメモリの支援方法があると考えられているのでしょうか?

 

そこで、今回は、ワーキングメモリを支援する方法について、自閉症を例に理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。

 

 

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ワーキングメモリを支援する方法:自閉症を例に

著書には、ワーキングメモリを支援する方法として、自閉症にも適応できる〝一般的な方略“と自閉症に〝特化した方略”の2つが記載されています。

 

 

一般的な方略

以下、著書を引用しながら見ていきます。

ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を分割する

 

活動中のワーキングメモリによる処理を減らす

 

ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする

 

 


それでは、それぞれについて具体的に見ていきます。

 

ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を分割する

自閉症の人たちはマルチタスクを苦手としています。

マルチタスクとは一度に複数のことを処理することです。

自閉症の人たちにとって、特定の課題に注意が向くと、そこから他の課題に注意を移行することが困難となります。

そのため、対応法として、マルチタスクを減らしシングルタスクを多くしていくことで、ワーキングメモリへの負荷を減らしていくことができます。

 

活動中のワーキングメモリによる処理を減らす

自閉症の人たちにとって、抽象的な概念の理解や自分の考えを整理し言葉にしていくことに多大なワーキングメモリの負荷がかかります。

そのため、こうした負荷のかかる活動を減らし、論理的な内容や機械的な知識の獲得といった自閉症の人たちが得意とする活動に絞ることで効果的な学びを得ることができます。

 

ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする

自閉症の人たちには、様々な感覚の問題があります。

例えば、光や音、匂いなどに過敏に反応するケースが多くあります。

そのため、刺激となるものはできるだけ取り除く必要があります。

こうした刺激はワーキングメモリに間接的に影響を与えると考えられています。

 

 

特化した方略

以下、著書を引用しながら見ていきます。

ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、物理的な刺激を最小限にする

 

ルーティン化する

 

新しい情報を彼らの興味関心と結びつける

 

 


それでは、それぞれについて具体的に見ていきます。

 

ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、物理的な刺激を最小限にする

以下、著書を引用しながら見ていきます。

肌に触れる特定の物質に過敏に反応してしまうことで、教室で落ち着くことができないかもしれません。

 

教室で靴を脱がせたり、椅子用のクッションを用意してあげましょう。

 

著書の内容から、自閉症の人たちの感覚過敏を減らすために、素足やクッションの活用などが有効だと考えられています。

こうした取り組み内容はとてもシンプルですが、環境が与える心地よさが、ワーキングメモリの働きを高めることに繋がると考えられています。

 

ルーティン化する

自閉症の人たちの支援でお馴染みの〝構造化″です。

〝構造化″には、大きくは、空間の構造化、時間の構造化、手順の構造化があります。

〝いつもと同じ″が自閉症の人たちにとっての大きな安心材料になります。

〝構造化″された環境であるからこそ、ワーキングメモリをうまく働かせることができます。

 

新しい情報を彼らの興味関心と結びつける

自閉症の人たちは興味関心が狭い一方で、特定の興味関心のある領域に関して深い知識を持っていることがあります。

そのため、興味関心を軸として、そこに新しい情報を加えていくことでワーキングメモリの機能を効果的に活用することができます。

 

 


以上、【ワーキングメモリを支援する方法について】自閉症を例に考えるについて見てきました。

自閉症の人たちの特性を理解していくことがワーキングメモリの機能を効果的に働かせることに繋がるのだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリについての理解を深めていきながら、その知見を療育現場で関わる子どもたちに応用できるように学びを深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.


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