「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
心の理論というと、他者の心の状態を読み取る力といったことから〝他者″についての理解の視点が取り上げられることが多くあります。
一方で、自閉症の人は〝自分″の心の状態を読み取ることはうまくできるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の人は自分の気持ちに気づきにくい?といった観点から、自閉症の心の理論の特徴について考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.」です。
自閉症の〝自己の心の理論″の特徴について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「心の理論」の障害だけでなく「自己の心の理論」にも障害があるのでは、ということが欧米で注目されるようになりました
ASDは、自分の感情をうまく認知できないために、将来的にうつ病や不安症になったり、社会での適応がいっそう困難になったりするリスクが高いと考えています。
著書の内容から、自閉症の人たちは、〝心の理論″の障害に加え、〝自己の心の理論″にも障害があると考えられるようになってきています。
そして、自分の気持ちへの認知ができない(弱い)ことが影響して、うつ病や不安症など社会適応の難しさが生じる可能性が高いと考えられています。
〝心の理論″とは、英語で〝theory of mind″と表記されます。
一方、〝自己の心の理論″とは、英語で〝theory of own mind″との表記があります。
〝自己の心の理論″とは、自分の感情状態への気づきや自分の感情を言語化する能力とも言えるかと思います。
自閉症の人たちは、他者の心の状態への理解の難しさに加え、自分自身の気持ち(感情)の理解にも困難さがあると考えられています。
補足として、〝自己の心の理論″の困難さには、〝心の理論″の障害以外にも、〝実行機能の障害″や〝弱い中枢性統合″なども影響していると考えられています。
著者のコメント
著者はこれまでの療育現場を通して、様々な自閉症の人たちとの関わりがあります。
その中で、自閉症の人たちは〝心の理論″の困難さといった〝他者の心の状態の理解の難しさ″が見られるのと同時に、自分の気持ちの理解にも難しさがあると感じることが多くあります。
例えば、他児から嫌なことをされた、または、嫌な出来事があった際に、何も話すことなく自分の気持ちに蓋をしているように見える子や、ただただイライラし続けている子もいます。
こうした子どもたちに、著者が自分の気持ちを言葉にして伝えることを促してもほとんど返答が来ないため、さらに、著者が子どもたちの気持ちを推測して〝○○があったから嫌な思いになったのかな?″などと問いかけると頷くといった感じです(何も返事がない場合もあります)。
一方で、うれしい気持ちを言葉にする方がうまくできる子どもたちが多いといった印象があります。
例えば、〝○○君と遊べて楽しかった!″〝○○遊びが楽しかった!″など肯定的な感情の方が理解しやすいように感じます。
さらに、肯定的・否定的感情を問わず、自己の複雑な感情認知となるとさらに難易度が上がると思います。
例えば、他児との関わりの中で、色々と嫌なこともあったが良いこともあり、結果として様々な感情を他児と共感できてよかったという体験は非常に複雑な感情が混ざっています。
白・黒と明瞭に分けることは難しいですが(そもそも感情とは主観的であり白黒をつけることが難しいのですが・・・)、人は様々な経験の中で快・不快といった感情を体験していきながら自分の内にある気持ちの変化(ゆらぎ)について理解していきます。
このような、複雑な感情状態についての言語化となると、大人の自閉症の方でも難しさがあるように感じます。
以上、【自閉症の人は自分の気持ちに気づきにくい?】自閉症の心の理論の特徴について考えるについて見てきました。
自分の気持ちを言葉にすることは想像以上に難しいことです。
そして、自分の気持ちを言葉にしていくためには、他者との共感や他者(大人)が気持ちを言葉にして伝え、それを理解する力が必要になります。
そのため、著者も子どもたちとの関わりの中で、気持ちを言葉にして伝えていくように心がけているのと同時に、子どもたちの感情の育ちに貢献する体験を常に与えていくことを目指しています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちの感情の育ちに寄与していけるような療育を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.