発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。
そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。
感覚の問題で多く見られるものに〝聴覚過敏″があります。
そして、〝聴覚過敏″を理解するにあたり大切なキーワードとして〝聴覚防衛反応″があります。
それでは、聴覚防衛反応とは一体どのようなものなのでしょうか?
そこで、今回は、聴覚防衛反応とは何かについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、支援の観点も含めて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。
聴覚防衛反応とは何か?
〝感覚過敏″の原因には、①感覚情報の過剰な入力、②防衛反応の発動、の2つが主な要因だと考えられています。
今回見る〝聴覚防衛反応″とは、②防衛反応の発動が要因となっています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
聴覚に防衛反応が出る場合もあります。これは「聴覚防衛反応」とも呼ばれ、「闘争・逃走反応」が日常的に出ている状態です。周囲の音や人の話し声が痛みや不快に感じてしまいます。
例えば、森の中を一人でハイキングしていたとします。
すると、木の陰からカサカサと何か音がしたとします。
もし、ここで蛇など危険な生物ではないかと予期した場合、心臓の鼓動が高まり、〝防衛反応(聴覚防衛反応)が発動″します。
このように、私たちは生活の中で、不快な音、危険な音を聞き分け(感じ分け)ることを行っています。
そして、〝聴覚防衛反応″があると様々な音(子どもの泣き声、工事音など)に過敏に反応し、身の安全を確保しようといった心理・行動が働きます。
発達障害児にはこうした〝聴覚防衛反応″が多く見られると言われており、著者の療育経験からも同様のことが言えます。
聴覚防衛反応への支援について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
識別感覚を優位にして、原始感覚(防衛反応)を抑えながら聴覚情報を処理する経験を積む(=徐々に慣れていく)
〝聴覚防衛反応″への支援な必要なことは〝安心感″を作り出すことです。
そのための方法として、著書にある〝識別感覚″を優位にして、〝原始感覚″を抑えていくことで、聴覚情報を処理する経験を積み重ねていくことにあると記載されています。
つまり、〝防衛反応″といった〝原始感覚″の発動を〝識別感覚″を優位にすることで抑制していくといった方法です。
例えば、著書には苦手な子どもの声を録音して、小さな音から再生していき徐々に慣らしていく方法もあると記載されています。
ここでのポイントは、音量や再生時間や再生のタイミングの主導権が〝聴覚防衛反応″のある人自身にあるということです。
著者もこれまでの療育経験から少しずつ苦手な音に慣れていった子どももいたと感じています。
一方で、聴覚過敏の種類や強度は個々によって多様であるため、まずは〝環境へのアプローチ″といった不快な刺激を取り込まない工夫をしていくことが必要だと思います。
著書にも、今回見てきた識別感覚を優位にして特定の刺激に慣れていくといった〝個別のアプローチ″に加えて〝環境へのアプローチ″の併用も大切だと述べられています。
まずは、環境調整をして子どもが安心して活動できる空間を整えていくこと、そして、苦手な感覚の苦痛さを理解してくれる人の存在が大切だと実感しています。
その上で、今回見てきた〝聴覚防衛反応″への支援といった〝個別のアプローチ″も大切になってくるのだと思います。
以上、【聴覚防衛反応とは何か?】支援の観点も含めて考えるについて見てきました。
感覚の問題は目には見えにくいため理解しづらく、気づきにくいのもまた問題だと言えます。
特に子どもであれば、その苦痛の正体がよくわからなかったり、言語化できない難しさもあります。
そのため、感覚過敏の子どもに携わる人たちは、子どもが不快だと感じている感覚を丁寧に理解しようとする姿勢と苦痛を軽減・除去してくための方法を考えていくことが大切だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、子どもたちに見られる感覚の問題への理解と対応方法について学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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