療育(発達支援)を長年行っていると、子どもたちの成長を実感する機会に多く出会うことがあります。
こうした出会いは、療育(発達支援)の〝成果″を感じる時でもあります。
もちろん、療育(発達支援)の成果は、複合的な要因が影響していることが多いため、特定の因果関係からは語ることができない難しさがあります。
一方で、〝○○の発達が大きく影響して○○の成果が出た可能性がある″〝○○の支援が大きく影響して○○の成果がでた可能性がある″といった仮説を立てることも可能だと言えます。
そして、長期的な子どもとの関わりを通して、この○○に当てはまるものが徐々に見えてくることがあります。
さらに、多くの事例を通して、仮説の精度を高めていくことが可能になっていきます。
それでは、療育(発達支援)の成果を感じる時として、どのような事例があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の成果について、臨床発達心理士である著者の経験談から、イライラ・癇癪への支援をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
【療育(発達支援)の成果】イライラ・癇癪への支援をキーワードに考える
事例:小学校高学年のA君(当時)
A君と著者が初めて出会ったのが、A君が小学校4年生の頃でした。
当時のA君は、自分の思い通りにいかないとすぐにカッとなる、気になる他児が近くに来ると〝来るな!″と怒鳴る、体を使った遊びで他児が投げたボールが当たると怒り出し、時には手が出ることもありました。
また、一度、カッとなると、イライラ・癇癪が収まるまでに時間がかかることも多くありました。
当時は、A君が暴れ出し、部屋中の物を投げたり、倒したりする状況が頻繁に見られる時期もありました。
こうしたA君のイライラ・癇癪は、〝問題行動″とも言われています。
一方で、こうしたA君の〝問題行動″には、そうならざるおえない行動の背景があることも事実としてあるように思います。
例えば、発達特性が影響している(衝動性、こだわりからくる見通しの崩れなど)、少しの刺激が気になる(聴覚過敏など)といったことが影響して、自己コントロールが難しくなっていると考えられました。
そのため、著者はA君のイライラ・癇癪といった〝問題行動″の背景を考えながら、まずは、A君が安心できる環境を整えていくことを大切に、支援を継続していきました。
関連記事:「【発達障害児の〝問題行動″の理解の仕方について】療育経験を通して考える」
それでは、次に、イライラ・癇癪への支援をキーワードに支援の経過をお伝えしていきます。
イライラ・癇癪への支援から見たA君の変化
A君のイライラ・癇癪が見られる状況において、著者はまずどのような背景のもとにこうした〝問題行動″が起こりやすいのかを分析することから始めました。
その結果、気になる他児と同じ部屋にいる状況、本人がこだわっている順番など見通しが崩れた瞬間、他児と物理的に少し強く接触した瞬間、学校の行事が近づいていることで普段以上に変化の負荷がかかっている状況などにおいて、イライラ・癇癪が起こりやすいことが分かってきました。
以上の分析を手がかりとして、例えば、気になる他児とは部屋をできるだけ分ける、本人がこだわっているところは可能な限り変化・変更を起こさないように工夫する、体を使った遊びの際には事前に遊びのルールを提示するなどの対応を試みていきました。
こうした支援を長期的に継続していったことで、A君には大きな変化が見られるようになっていきました。
A君は、気になる他児と同じ部屋にいてもほとんど気にする様子はなくなり、本人がこだわっていたことが変更になってもすぐにイライラすることはなくなり、さらに、他児との物理的な接触においても自ら謝るなどの行動の変化が見られるようになっていきました。
こうした変化は月日が経つごとに増していったように思います。
高学年になったA君は、自分のやりたいように物事が進まない時にも妥協する様子が見られたり、大人に不満や悩みを自ら相談し一緒に解決方法を考えるまでになりました。
こうした変化は、A君にとって安心できる環境(物的環境・人的環境)が日々の活動の中で整えられていく中で、A君自身が安心できる環境において、多くの楽しい体験やうまくいった・頑張ることができたという成功体験を積み重ねることができたことが一つの大きな要因だったと言えます。
そして、安心できる環境の中で過ごし続けたことで、発達特性が悪い方向に向かわず(二次障害の予防)、脳の成熟に伴って自己コントロールの力を高めることができたことが、イライラ・癇癪の軽減に繋がっていったのだと考えます。
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以上、【療育(発達支援)の成果】イライラ・癇癪への支援をキーワードに考えるについて見てきました。
発達障害の子どもには、イライラ・癇癪が見られることも多くあります。
一方で、本人にとって安心できる環境の中で、適切な配慮や支援が行われていくことで、ある時期を境に問題行動が少なくなっていくことも事実としてあるように思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も継続した療育実践を通して、療育の意味を見出していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。