実行機能とワーキングメモリの視点は、発達障害児支援を行う上でとても大切です。
〝実行機能″が目標に向けて計画を立てて注意を維持する力、つまり、〝やり抜く力“のことを言います。
〝ワーキングメモリ″は〝脳のメモ帳”といった記憶の保持・処理に関する機能のことを言います。
そして、実行機能には、「更新」「抑制」「シフト」の3つの機能があります。
ワーキングメモリはこのうち「更新」の機能に該当すると考えられています。
関連記事:「ワーキングメモリは実行機能(3つの構成要素)の中にどう位置づけられるのか?」
それでは、実行機能とワーキングメモリから発達障害児の支援方法を考える場合にはどのような視点が大切だと考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、実行機能とワーキングメモリから見た支援方法について、学習困難児を例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「湯澤正道・湯澤美紀(2017)ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!.学研.」です。
実行機能とワーキングメモリから見た学習困難児の支援方法
学習するために、まず前提条件として、学習場面への〝参加″が必要になります。
〝参加″することができて初めて教える側が子どもに知識を与えることができます。
一方で、学習場面に〝参加″することが困難な子どももいます。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「実行機能」について、「抑制」に困難さを示すADHDのある子、「シフト(注意の切り替え)」に困難さを示すASDのある子が多いことを考えると、学習に参加できない理由の多くは、発達障害特性とそれによる二次障害に関わりがあることがわかる。
著書の内容を見ると、学習場面への〝参加″が難しい要因として、〝発達特性″や〝二次障害″のあるケースが多いと考えられています。
例えば、ADHD児は、「抑制」の困難さから、自分が興味のある対象に注意を向けてしまうため、本来やるべき活動に注意を向けることがうまくいかないなどです。
また、ASD児は、「シフト」の困難さから、今行っている活動から次の活動への切り替えがうまくいかないことです。
実行機能の3つの要素(「更新」「抑制」「シフト」)である、「抑制」と「シフト」は、活動への〝参加″に関連します。
つまり、「抑制」と「シフト」の機能がうまく働くことで活動に〝参加″できて初めて「更新」の機能といった知識のアップデートが可能な状態になります。
これらの視点を踏まえると〝学習困難児への支援方法″には次のような見方ができます。
以下、著書を引用しながら見てきます。
学習に遅れを示す子に対する支援は、「理解・習得・活用」を行う力=ワーキングメモリが弱い場合と、「参加」を妨げる発達特性がある場合によって、分けて考えなければならない。
著書の内容から、学習困難児はワーキングメモリが弱いケースと、学習の前提が困難、つまり、〝参加″が難しいケースに分けて考える必要があるということです。
前者はワーキングメモリへのアプローチが必要であり、後者は発達特性や二次障害への理解や支援が必要になります。
著者も療育現場を見ていて、上記の内容には納得感があります。
例えば、初めの活動に向けてスタッフが子どもに説明する場面を設けたとしましょう。
この場合、場面にしっかりと〝参加″できる子どもとそうでない子どもがいます。
〝参加″が難しい子どもの場合には、様々な刺激に注意が向きやすく、気づくと興味のある他の方に向かっていることがあります。
その他、特定の活動を行っている際に、その活動に注意が向いていることもあり、声をかけてもなかなか活動を終えることができない場合もあります。
ASDやADHDなどの発達特性のある子どもは、「抑制」と「シフト」が困難であるため、そもそもスタッフが示す活動への〝参加″が難しかったり、〝参加″するまでに多くの時間を要する場合もあります。
一方で、〝参加″できたとしても、子どもの理解のレベルや情報処理の仕方によっては情報の更新が難しいと感じるケースも多くあります。
こうしたケースがこれまで見てきたワーキングメモリ、つまり、「更新」の困難さなのだと感じます。
このように、学習や活動への〝参加″、そして、学習内容や活動内容の〝更新″が〝できる・できない″を考えた場合に、〝できる・できない″の違いは、特性の影響なのか?学習自体の問題なのか?を分けて考えることは療育現場においても有用な考え方だと感じます。
以上、【実行機能とワーキングメモリから見た支援方法について】学習困難児を例に考えるについて見てきました。
実行機能とワーキングメモリに関する情報を整理していくことで、発達障害への理解や支援方法もまた更新され、より良い支援に繋げていくことができるのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も実行機能やワーキングメモリへの理解を深めていきながら、支援の質を高めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】」
湯澤正道・湯澤美紀(2017)ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!.学研.