〝ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。
ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。
ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。
中でも、発達性協調運動障害(DCD)の人たちは視空間性ワーキングメモリに弱さがあることが分かっています。
関連記事:「【ワーキングメモリと発達性協調運動障害の関係について】困難な特徴について考える」
それでは、発達性協調運動障害の子どもに対してどのようなワーキングメモリの支援方法があると考えられているのでしょうか?
そこで、今回は、ワーキングメモリを支援する方法について、発達性協調運動障害を例に理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。
ワーキングメモリを支援する方法:発達性協調運動を例に
著書の中では、DCDの子どもにも活用できるワーキングメモリの支援方法が3つ記載されています(以下、著書引用)。
ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する
活動中のワーキングメモリによる処理を減らす
ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする
それでは、次にそれぞれについて具体的に見ていきます。
ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する
まずは、〝視空間性ワーキングメモリ″に弱さがありますので、視覚情報を補助することが必要です。
著書の中では、学習場面における補助方法が例として記載されており、例えば、一日のスケジュール表を子どもの見える所に置き、そのスケジュール表のどの部分が今の授業に当たるのかを矢印を加えることで、全体の活動の中での現在の位置を把握できたり、今の授業に必要な教材を準備することに役立ちます。
スケジュール表には、写真やイラストなど子どもにとって分かりやすい視覚情報を加えることが良いかと思います。
活動中のワーキングメモリによる処理を減らす
弱さを補う方法以外にも、もともと苦手とする〝視空間性ワーキングメモリ″にかかる処理を減らすこともまた必要です。
著書の中で、学習場面の例として、書く作業(作文など)への困難さへの対処方法として、音声入力ソフトの活用が記載されています。
音声入力ソフトを活用することで、DCDの子どもが本来苦手とする書くという作業にエネルギーを注がなくても、書きたい内容に集中することができます。
その他、掃除や整理整頓などでは、友人と組むことでワーキングメモリに関わる負担を減らすことができると記載されています。
特に年齢の低い子どもにおいて、物の配置や順序だてて片付けることは苦手なため、チームで協力することで作業効率が上がることがあります。
ワーキングメモリがオーバーフローを起こさないように、気が散るものを最小限にする
最後に、掲示物など気が散る視覚情報を極力減らすといった方法があります。
活動する空間に視覚情報が多いと、どうしても、その情報に気を取られてしまったり、本来やるべき活動に意識が向きづらくなってしまいます。
そのため、活動する空間の視覚情報は必要最小限にする工夫が必要です。
以上、【ワーキングメモリを支援する方法について】発達性協調運動障害を例に考えるについて見てきました。
著書もこれまでの療育経験の中で〝視空間性ワーキングメモリ″に苦手さのある人たちと多く関わってきています。
その経験を踏まえても、今回取り上げてきた支援方法は有効であると感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリへの理解を深めていきながら、その子に合った必要な支援を考えていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】」
トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.