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【ワーキングメモリを支援する方法について】ディスレクシアを例に考える

投稿日:2023年10月30日 更新日:

ワーキングメモリ(working memory)″とは、情報を記憶し、処理する能力のことを言います。〝脳のメモ帳″とも言われています。

ワーキングメモリの機能として、〝言語性ワーキングメモリ(言語的短期記憶)″と〝視空間性ワーキングメモリ(視空間的短期記憶)″とがあり、両者を統合する司令塔的役割が〝中央実行系″と言われています。

ワーキングメモリは様々な発達障害によって違いがあることが研究から分かってきています。

中でも、ディスレクシアの人たちは言語性ワーキングメモリに弱さがあることが分かっています。

 

それでは、ディスレクシアの子どもに対してどのようなワーキングメモリの支援方法があると考えられているのでしょうか?

 

そこで、今回は、ワーキングメモリを支援する方法について、ディスレクシアを例に理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.」です。

 

 

ワーキングメモリを支援する方法:ディスレクシアを例に

著書には、ワーキングメモリを支援する方法として、ディスレクシアにも適応できる〝一般的な方略“とディスレクシアに〝特化した方略”の2つが記載されています。

 

 

一般的な方略

以下、著書を引用しながら見ていきます。

ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する

 

活動中のワーキングメモリによる処理を減らす

 

複雑な活動では、どこまでやったかを示し続ける

 

 以上の3つが〝一般的な方略“として記載されています。

 


それでは、次にそれぞれ具体的に見ていきます。

 

ワーキングメモリを支援するために、視覚的に提示する

ディスレクシアの子どもたちは、言語性ワーキングメモリの弱さがある一方で、視空間性ワーキングメモリは平均かそれ以上の強さを持っていることが多くあります。

そのため、得意な視空間性ワーキングメモリの力を活用できるように、視覚的な提示(イラストや図、写真など)を使用していくことが有効です。

 

活動中のワーキングメモリによる処理を減らす

言語性ワーキングメモリの負荷を減らすことも重要な方法です。

例えば、事前に教科書の内容を要約して全体像を伝えておくことや、その子がもっている既存の知識と繋げていくような情報の伝達方法もまた有効だと考えられています。

 

複雑な活動では、どこまでやったかを示し続ける

例えば、ディスレクシアの子どもが特定の単語が読めず意味もわからず、文章を読み続けていたとしましょう(非常によく見る光景かと思います)。

その場合には、読めない単語に印をつけるなどして、一つのパラグラフを読み終えた後にわからない箇所に戻り、単語の読みと意味を整理していくという方法が有効です。

この方法を取ることで、分からずに読み進めてしまうことを防ぎ、どこまで読んだのかを把握することに繋がります。

 

 

特化した方略

以下、著書を引用しながら見ていきます。

文字と単語の構成要素を自動化する

 

ワーキングメモリの処理速度を速める

 

ワーキングメモリによる処理を減らすために、ゆっくり話す

 

ワーキングメモリのよる処理を減らすために、指示を録音する

 

情報を活性化し続けるために、リハーサルをうながす

 

ワーキングメモリの負荷を減らすために、活動を短くする

 

ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を具体的にする

 

以上の7つが〝特化した方略“として記載されています。

 


それでは、次にそれぞれ具体的に見ていきます。

 

文字と単語の構成要素を自動化する

この方法は、ディスレクシアの人が苦手とする音韻意識の強化に繋がります。

例えば、あ、い、う、え、お、といった母音を特定の文章から探しできるだけすばやく〇で囲む(文字や単語を識別する)など、文字→音への変換作業を簡単な問題から練習していくことで自動化を促し、その結果、、言語性ワーキングメモリにかかる負荷を減らしていくことができます。

 

ワーキングメモリの処理速度を速める

ディスレクシアの人たちにとって長い文章を読むことは多くのワーキングメモリを要するため苦痛が生じます。

そのため、短くかつ分かりやすい文章を読むことで速読する力がついていきます。

このトレーニングによって、少しずつ処理速度を速めていくことができます。

 

ワーキングメモリによる処理を減らすために、ゆっくり話す

口頭での速い指示、そして、特にはじめての情報はディスレクシアの人にとって多くの情報処理が必要になるため記憶への定着が困難となります。

そのため、指示する側はゆっくり話すことが必要となります。

 

ワーキングメモリのよる処理を減らすために、指示を録音する

ディスレクシアの子どもの多くは、口頭でのコミュニケーションに問題がないこともあります。

一方で、〝書く“となると、普段話している内容との間に大きなズレが生じます。

口頭では非常に濃い内容を話していても、〝書く“となると非常に稚拙な文章になってしまうというものです。

これを防ぐためには、自分の考えなどを録音し(〝書く“といった負荷を減らすために)、その後、録音した音声情報を頼りに〝書く”ことも有効な方法です。

 

情報を活性化し続けるために、リハーサルをうながす

周りが話した内容を記憶に留めておくことは、ディスレクシアの子どもにはとても大変な作業です。

そのため、必要な情報を活性化し定着に促すために、〝リハーサル(繰り返す)“することもまた有効な方法です。

 

ワーキングメモリの負荷を減らすために、活動を短くする

特に文章問題など言語性ワーキングメモリを多く活用する課題において(学校の課題の多くに該当します)、ディスレクシアの子どもは情報処理に多大な負荷を要します。

そのため、情報量を減らすこと、つまり、活動時間を短くしたり、宿題量を減らす工夫もまた大切な支援方法です。

 

ワーキングメモリによる処理を減らすために、情報を具体的にする

文章が教科書一面に載っているものだと、どこまで読んだかが分からなくなることがあります。

そのため、ある程度、まとまりのあるところで情報を区切ることでワーキングメモリの負荷を減らすことができます。

著書には、例えば、冒頭に箇条書きで数字(「・」の代わりに)を活用したり、低学年児であれば色を活用する方法が記載されています。

 

 


以上、【ワーキングメモリを支援する方法について】ディスレクシアを例に考えるについて見てきました。

ディスレクシアの子どもは言語性ワーキングメモリに弱さがある一方で、視空間性ワーキングメモリは強みとなる可能性を持っています。

こうしたワーキングメモリの弱み・強みを理解した支援方法が今後ますます発達障害児支援の領域には必要となっていくのだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もワーキングメモリの理解を深めていきながら、療育現場で実施可能な支援について試行錯誤していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

 

 

関連記事:「【ワーキングメモリとディスレクシアの関係について】弱さ・強さの特徴について考える

 

 


参考となる書籍の紹介は以下です。

関連記事:「ワーキングメモリに関するおすすめ本6選【中級編】

 

 

トレイシー・アロウェイ・ロス・アロウェイ(著)湯澤正道・湯澤美紀(監訳)上手幸治・上手由香(訳)(2023)ワーキングメモリと発達障害[原著第2版]: 教師のための実践ガイド.北大路書房.


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