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自閉症の実行機能について:実行機能の3つの要素と療育での困難事例を通して考える

投稿日:2020年6月20日 更新日:

自閉症を理解する上で、様々な視点があります。

その中には、相手の意図や信念を理解する能力の「心の理論」の困難さや、全体よりも細部にこだわる「弱い中枢性統合」や、感覚の過敏さ・鈍感さなどがあります。

さらに、目標を計画し、目標を実行するために注意を持続する能力の「実行機能」にも苦手さがあると言われています。

実行機能に関しては、ADHDの行動特徴を説明する視点としてもよく使用されています。

 

それでは、「実行機能」とは一体どのような特徴があるのでしょうか?

そして、自閉症の人に見られる実行機能の困難さにはどのようなケースがあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症の実行機能に焦点を当てながら、実行機能の概要と臨床発達心理士である著者が療育現場で感じる自閉症児の実行機能の困難さの事例についてお伝えしていきます。

 

 

今回参考にする資料は、「別府哲・小島道正(編著)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.」「中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.」「湯澤正道(編著)(2018)知的発達の理論と支援:ワーキングメモリと教育支援.金子書房.」です。

 

 

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実行機能の概要:3つの構成要素を例に

以下、著書を参考にした実行機能の説明になります。

実行機能(executive function)とは、「計画を立て、その計画通りに集中することの維持、別の刺激に飛びつくことを抑制するプロセスに関わっている高次の脳機能」のことを言います。

そして、実行機能には以下3つの要素があります。

1つ目として、抑制(inhibition)で、これは、目標達成に当面関わらない無関連なことを抑制する働きのことです。

2つ目として、更新(updating)で、これは、入力されつつある情報を符号化し、モニタリングして、古い情報を新しい情報に置き換える働きのことです。

3つ目として、シフト(shift)で、これは、状況や課題に応じて注意をシフトする働きのことです。

 

次に、実行機能を3つの要素の具体例について見ていきます。

以下は、著者の放課後等デイサービスで仕事の例になります。

 

まず、法人本部で事務作業をしていたとします。途中で、事業所(活動拠点)に行く時間になったので事務作業を切り上げ出発への準備を始めます。➢シフト

次に、事業所に向かいながらも、先ほどまでやっていた事務作業のことなど気になる点がありながらも意識を次の仕事に向けます。➢抑制

そして、事業所でその日の活動の予定を共有するなど、新しい情報など必要な情報を共有します➢更新

 

 

自閉症の実行機能について:療育経験を通して考える

自閉症の人はこうした実行機能に苦手さを持ちます。

そのため、一度、自分の中であることがルール化、パターン化されると変更することが難しくなります。

よく聞く例として、道順にこだわる、何か作業をするときの手順にこだわる、物の位置や並びにこだわるなどがあります。

こうした行動傾向はある種「こだわり」という見方もされますが、実行機能という認知機能について理解することで、こうした行動の背景要因を深く理解することができると思います。

 

 

著者の体験談

著者が現場で感じる実行機能の困難さの事例についてお話します。

まずは、自閉症の小学生男子A君です。

A君は帰りの道順(車で送迎する)にこだわりがあります。

最速最短が好む傾向があり、少し道を間違える、送迎順が変わるとパニックを起こすこともあります。

こうした変更の難しさは、実行機能の困難さが背景にあることが予測されます。

 

次に、自閉症の小学生女子Bさんです。

Bさんは、帰りの時間になっても折り紙や読書などそれまでやっていた活動をなかなか終えることができません。

急に終わりにしようものなら、声を上げて抵抗することもあります。

Aさん同様に、こうした特徴も実行機能の困難さであると考えられます。

 

このように、あるパターンにこだわることで変更が難しい、活動を中断するなど抑制と変更が難しいなどの特徴は自閉症の人たちによく見られる行動特性です。

 

対応としては、こうした特性を理解しながら、変更点などをできるだけ早めに伝える、また、活動の切り替えの際には、早めに残り時間やどこで遊びを終わりにするのかを決めるなどの対応が考えられます。

こうした対応を繰り返すことで、徐々に変更や切り替えがうまくできたという場面が増えていったという実感があります。

新しい情報を更新するためには、まずは、シフトと抑制がカギになります。気持ちを切り替える、他の刺激などを抑制することで、初めて新しい情報を更新できるという感覚は私たちの生活を振り返ってみても納得することが多いと思います。

 

 


実行機能は発達障害分野だけでなく、他の分野など様々なところで注目されている概念です。

今後も、行動の背後にある要因を様々な視点から捉えられるように日々の学びを大切にしていこうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

別府哲・小島道正(編著)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.

中島美鈴(2018)もしかして、私、大人のADHD?:認知行動療法で「生きづらさ」を解決する.光文社新書.


湯澤正道(編著)(2018)知的発達の理論と支援:ワーキングメモリと教育支援.金子書房.

 

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