〝社会性″とは、様々な定義や表現があるかと思いますが、一つ定義を取り上げると、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと言えます。
著者は、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしています。
療育経験を通して、子どもたちの〝社会性″の育ちを実感する機会が多くあります。
それでは、発達障害児への支援を対象とした際に、どのような社会性への支援方法があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育現場(発達障害児支援の現場)における社会性への支援について、臨床発達心理士である著者の経験談をもとに理解を深めていきたいと思います。
社会性への支援②:発達障害児支援の現場を通して考える
著者が〝社会性への支援″として、大切にしていることの一つが〝協力活動を通して仲間関係を発展させる″です。
他者と協力して何を成し遂げるためには、まずは活動の〝目的″を共有する必要があります。
そして、〝目的″に向けて〝相互の役割を理解しながら″協力して活動に取り組む必要も出てきます。
つまり、協力活動には、〝目的″の共有と、〝目的″に向けた〝プロセスの共有″が大切になります。
それでは次に、協力活動を通して仲間関係を発展させた事例について見ていきます。
事例:戦いごっこを通して関係性が深まったA君とBちゃん
著者の療育現場では戦いごっこが非常に盛んに行われています。
戦いごっこでは、著者が敵役となり、子ども同士がチームを組んで著者に挑んでくるというルールが確立されています(徐々にこうしたルールになっていきました)。
A君とBちゃんは、当初は興味関心も異なることから、それぞれ他の遊びをして過ごすことが多く、ほとんど交流することはありませんでした。
一方で、著者とそれぞれ戦いごっこをして過ごすことはありました。
ある時、A君が著者に負けそうになり〝だれか助けて―!″と叫ぶと、近くにいたBちゃんが著者を倒そうと攻撃してきました!
結果、著者は惨敗しました!!!
これを機会に、A君は戦いごっこでやられそうになると必ずBちゃんを呼ぶようになりました。
Bちゃんにとっても年下のA君に頼られることが嬉しかった様子でした。
そして、次第にA君とBちゃんが関わる様子も増え、戦いごっこの際には、二人で戦略を練る様子も出てきました。
お互い共通の楽しめる遊びの中で、著者を倒すという共通の目的を持ったことで、目的に向けて互いに協力する様子が増えてきました。
協力する場面は、他の場面にも見られるなど般化作用もあったように思います。
BちゃんとA君はその後、様々な遊びを共有したり、楽しく話をするなど、良い仲間関係を築いていくことができました。
この状況は自然になったというよりも、著者が事前に仕掛けをしておいたことが功を奏したのだと思います。
以前のBちゃんにとって、A君は好きな子どもというよりは、どちらかというと嫌いなタイプだったように思います。
一方で、著者は面倒見が良いBちゃんの性格を把握しており、おそらく頼られることで良い関係ができるのではないかと考えていました。
A君はどちらかというと甘えん坊な性格であり、直ぐに誰かを頼る癖もありました。
そのため、著者は、A君とBちゃんの両方の性格を見て、〝頼る・頼られる″の関係を、戦いごっこを通して生み出すことができるのではないかと思いつきました。
Bちゃんには、A君がBちゃんに助けを呼ぶかもしれない、Bちゃんのことを頼りにしている、というプラスの表現を事前に伝えておきました。
一方、A君には、Bちゃんは強いから助けを呼ばないようにと伝えておきました。
なぜ、このような伝え方をしたかというと、戦いごっこの中で、著者が負けそうになる、不利になるとA君は喜ぶからです。
つまり、劣勢の状態にならないように著者の優位性が維持されるような伝え方が有効であると知っていたからです。
この事例は、子どもたちの性格を踏まえて、子どもたちに共通の目的を持たせたことで、互いに協力していく中で関係性を発展させていったケースです。
この事例から、関わりの無い子どもたち同士も、共通の目的を持つことで、仲間関係を形成し発展させることができるのだと実感させられました。
以上、【社会性への支援②】発達障害児支援の現場を通して考えるについて見てきました。
もちろん、仲間関係はもともと持っている性格が合う・合わないなどもあるため、関わるスタッフは子どもの性格を把握することが大切だと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も少しでも子どもたちの社会性の発達に貢献していけるように、意図的に子ども同士が交流できる環境を作っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
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