ことばは人間だけがもつ能力です。
ことばを獲得することで、人は、相手とことばを介してコミュニケーションすることができ、ことばによって思考することができます。
それでは、ことばにはそもそもどのような役割があるのでしょうか?
そこで、今回は、ことばの役割とは何か?について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「小椋たみ子・小山正・水野久美(2015)乳幼児期のことばの発達とその遅れ-保育・発達を学ぶ人のための基礎知識-.ミネルヴァ書房.」です。
ことばの役割について
著書の中では〝5つのことばの役割″が記載されています。
それでは、5つの役割を引用しながらそれぞれについて見ていきます。
第一に子どもは他者とことばでコミュニケーションする(伝え合う)能力を獲得します。
人は自分の思いや考え、意図などをことばによって伝えます。伝え合う能力には、相手の思いや考え、意図などを逆にくみ取る力も必要になります。
著者の療育現場では、ことばの力を獲得するに伴い、自分の意思をことばではっきりと伝えられるようになった子どもたちも多くいます。
そして、相手のことを理解する力が高まるにつれて、コミュニケーション能力の発達もさらに高まっていきます。
ことばの力を育むためには、他者と様々な共有世界を経験していくことが大切だと考えています。
第二に、子どもはことばでいろいろなことを考えられるようになります。
ことばは思考の道具だとも言われているように、ことばの発達に伴い、ことばによって様々な思考ができるようになります。
著者の療育現場では、ことばの力が育ってくると、自分で〝○○の時は○○しよう″〝○○をやるためには○○の準備をしよう″など、遊びに関する予定や作りたいものを頭の中で(ことばによって)考える様子が目立ってきます。
発達に躓きのある子どもたちにとってことばで思考することは難しいことがあるため、支援の中で大切にしていることは、紙やホワイトボードに予定や活動内容を書いて伝えるなどがあり、こうした視覚情報からのサポートも思考を補うためにはとても有効だと感じています。
第三に、自分の行動をコントロールすることができるようになります。
ことばには自分の行動や感情を調整(コントロール)する役割もあります。
よく、行動調整・感情調整などとも言われるものです。
ことばの力が発達していくと、これまでは大人が傍で行動や感情を調整するために、行動を制止したり促したり、気持ちを切り替える声掛けなどを行っていた状態から、自分で調整することが可能になっていきます。
著者の療育現場では、自分の行動をコントロールすることを苦手としている子どもたちが多くいます。
そのため、コントロール・調整が必要な点を事前に把握しておきながら、ことばによる調整、視覚情報による調整、事前に予定を伝えるなどの調整、環境を分けるなどの調整をするように心がけています。
第四に、自分の思いや要求を示す自己表現の手段としのことばを使えるようになります。
ことばを獲得する前の子どもたちは、やりたいこと・欲しい物などを発生や指差しなどで伝えます。
そして、ことばを獲得することで、自分の思いや要求をことばで伝えることができるようになります。
著者の療育現場では、自分の思いをことばにすることが苦手な子どもたちが多くいます。
例えば、集団の中に入ると黙り込んでしまう、やりたいことがあってもなかなか言い出すことができないなどです。
そのため、ことばという指標に頼らずに、その子がある場面においてどのような行動や表情を見せているのかを頼りに、そこから気持ちを推測し、その子に〝○○したいのかな?″などとことばで伝えるようにしています。
第五に、ことばは「私が私である」という自我の形成に中心的な役割を果たします。
ことばは自分で音声として表出すると、その音声が自分の耳から内部に入ってくるという特徴があります。
つまり、能動性(声に出す)と受動性(耳から自分の声を聞く)が交差しているということです。
こうした行動が繰り返されると、少しずつ自分の内部にことばの世界が広がっていきます。
そして、ことばの世界の蓄積は、その声を出し聞いているという同一性(私が私である)の形成にも寄与し、これが自我の形成の育ちに繋がっていきます。
以上、【ことばの役割とは何か?】療育経験を通して考えるについて見てきました。
ことばには様々な役割があります。
そして、ことばの育ちには、他者と様々な経験を共有することがとても大切になります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちのことばの育ちに少しでも貢献していけるように、日々の取り組みを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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小椋たみ子・小山正・水野久美(2015)乳幼児期のことばの発達とその遅れ-保育・発達を学ぶ人のための基礎知識-.ミネルヴァ書房.