発達支援の現場で働いていると、発達障害とは何か?知的障害は発達障害に入らないのか?などの疑問が出てきます。
意外に思われるかもしれませんが、働いている支援員の中でも、概念の統一が曖昧だと感じることがあります。曖昧となる要因には、そもそも個々人が引用している定義に違いがあることが想定されます。
さらに、用語の定義や診断基準などは時代に応じて変化するため、各人で情報に接してアップデートする必要があります。
発達障害というとすぐに思い浮かぶのが、自閉症やADHD、学習障害かと思いますし、私の職場や周囲でもこうした理解が多いように思います。
DSM-5などの医学の分野では、従来の発達障害(developmental disorders)から神経発達症/神経発達障害(neurodevelopmental disorders)という名称が2013年より変更し使用されるようになりました。
私はDSM-5 を読むことで発達障害の最新の理解が進んだと実感しています。
そこで、今回はDSM-5を参照しながら 、神経発達症/神経発達障害についての概要を見ていくことで、発達障害についての理解を深めていこうと思います。
発達障害とは(発達障害者支援法)
日本で発達障害というと、よく引用されるのが、「発達障害者支援法」かと思います。
発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常年齢において発現するものとして政令で定めたもの」(発達障害者支援法より)
それに対して、DSM-5では以下のように定義されています。
神経発達症/神経発達障害とは(DSM-5)
以下、神経発達症の定義です。
神経発達症は「発達期に発症し、典型的には発達期早期、しばしば小中学校入学前に明らかとなり、個人的、社会的、学業または職業における機能の障害を引き起こす。発達の欠陥によって特徴づけられる。」(DSM-5より)
神経発達症/神経発達障害の分類について(DSM-5)
神経発達症の分類は、従来の発達障害と呼ばれてきたグループのことを指し、そのグループには以下のものがあります(厳密にはもっと細かいです)。従来に関しは、DSM-5より前の名称になります。
知的能力障害(Intellectual Disabilitie)、知的発達症/知的発達障害(Intellectual Developmental Disorder)➢従来:精神遅滞、精神発達遅滞、知的障害など
自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder)➢従来:広汎性発達障害(自閉症、自閉性障害、アスペルガー症候群、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害などを含む)
注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)➢従来:注意欠如障害(ADD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、多動性障害(HD)など
限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder)➢従来:学習障害(LD)など
コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群(Communication Disorder)➢従来:コミュニケーション障害など
発達性協調運動症/発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)➢従来:発達性協調運動障害など
以上が、神経発達症の分類になります。厳密にいうともっと細かく定義されていますので、興味のある方はDSM-5 を参照して下さい。
DSM-5の変更点
それでは次に、DSM-5によって変更になった内容について、特徴的なものを取り上げていきたいと思います。
まずは、知的能力障害です。変更点として、知的な能力および適応的な機能の評価が強調され、知能指数(IQ)は診断の際の補助と位置付けられ、診断基準からIQスコアについての記載がなくなりました。そして、重症度は、患者の実生活上の困難さを含めた総合的判断で分類されるようになりました。
次に、自閉スペクトラム症です。変更点として、広汎性発達障害から自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)へと変更になり、ASDの診断項目は以下①社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害、②限定された反復する様式の行動、興味、活動➢下位項目として、知覚の過敏性・鈍感性といった知覚異常が含まれるようになりました。
次に、注意欠如・多動症です。変更点として、DSM-Ⅳまでは行動障害に分類されていましたが、DSM-5からは神経発達症に分類されるようになりました。診断基準の記述への成人における具体的な症状例の追加や、初発年齢の引き上げなどにより成人の診断がつけやすくなったのも特徴としてあります。
最後に、限局性学習症です。変更点として、「限局性」あるいは「特異的」という用語を使用することで、知的障害による全般的な学習困難と区別する目的で使用されるようになりました。
以上が、大変簡単にではありますが、DSM-5による特徴的な変更点になります。
まだまだ他にも説明不足な点もあるかと思いますが、以前との用語や内容の変更などは記載できたかと思います。
私自身、神経発達症という概念を知ることで発達障害への説明がより明確になったことを実感しています。
このように研究が進むことで、発達障害の定義や説明内容なども変わってきます。
私もこうした時代の変化による用語の変更やなぜ変更になったのか等の背景も考えていきながら、今後も発達障害への理解を深めていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.