自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、対人・コミュニケーションの困難さやこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。
人が社会の中で生きていく上で必要になるのが〝道徳″です。
道徳的判断ができることで、人は社会の中で他者とうまく関わることができたり、ルールを守って行動することができます。
それでは、対人関係に偏りのある自閉症児は道徳的判断をする際に、定型発達児との間に違いはあるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症児の道徳的判断の特徴について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.」です。
道徳とは何か?
辞書的な定義によれば〝道徳″とは、〝善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばならない規範の総体″のことを言います。
このように、〝道徳″とは、善悪を判断する際に守るべきルール・規範のことを言います。
また、〝道徳″には、発達段階があり、コールバーグによれば6段階の過程があると言われています。
自閉症児の道徳的判断について
著書には、自閉症児の道徳的判断についての研究が記載されています。
その内容を簡単に言うと、意図(悪い・そうでない)→結果(悪い・そうでない)の4つの組み合わせにより、この行動を起こした人をどれだけ許せるかを問う研究になっています。
ここで大切な点は、人の行動の良し悪しは、結果だけではなく、意図して悪いことをしたかどうかが重要だということです。
その結果は以下の通りです(以下、著書引用)。
自閉症のグループも定型発達のグループも悪い意図や結果を許せないと判断しましたが、意図せず悪いことが起きてしまった場面では自閉症のある人のほうが定型発達に人よりも許せないとする回答が多い傾向がありました。
つまり、自閉症のある人は意図よりも結果を重視しているということです。
著書の内容から、自閉症児も定型発達児も悪い意図や結果を許せないと判断している一方で、意図せず悪いことが起きた場合において、両者に違いが見られています。
つまり、自閉症児の方が意図よりも結果を重視しており、定型発達児は意図と結果の関連を見て善悪を判断しているということになります。
自閉症児には、他者の意図や心情といった行動の背景を読む力、つまり、〝心の理論″に苦手さがあります。
そのため、道徳的判断をする際には、人の〝意図″→〝結果″という一連の繋がりを理解することが難しいようです。
著者の療育現場には、多くの自閉症の子どもたちがおります。
彼らと接していると、確かに他者の行動の結果にのみ注意が向いているように思います。
定型発達児においては、文脈を通して他者の意図を踏まえて行動の結果を自然と見る傾向がありますが、それが難しいという印象があります。
そして、著者のサポート内容の多くが、他者の意図を伝える割合が多いことからも、意図→結果の理解の難しさを実感できます。
道徳的判断と心の理論の関連について
著書には、引き続き道徳的判断と心の理論の関係についての研究知見が記載されています。
結果を含めた考察について著書を引用しながら見ていきます。
つまり、心の理論が発達すると、道徳判断において、結果よりも意図に注目するようになっていくということです。他者の視点から物事を考える力である心の理論の発達と道徳判断の発達は関係しているようです。
心の理論には、発達段階があると言われています。
心の理論をはかる課題に〝誤信念課題″があります。
〝誤信念課題″も〝一次の誤信念課題″→〝二次の誤信念課題″へと発達段階があります。
つまり、〝二次の誤信念課題″が通過できるようになると、様々な人物間の意図や心情の理解が深まっていきます。
そして、著書にあるように、〝心の理論″が発達することで、より高次の道徳的判断が可能(意図の理解も含めた)であることが示唆されています。
以上、【自閉症児の道徳的判断の特徴について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
自閉症児の道徳的判断は定型発達児とは異なる特徴があることが理解できたかと思います。
大切な点は、心の理論についての理解です。
心の理論が発達していくことで道徳的判断もまた向上する可能性があるということです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で子どもたちと関わる際には、目に見えない他者の心の状態を具体的に子どもたちに伝えていく工夫をしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【二次の心の理論の発達について】道徳的な判断を例に考える」